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「ふむ、見たところ外傷や病気ではないようだな。こんな場所に一人で、不安だっただろう。もう大丈夫だ。」「……あんた、一体。」ぼうっと男の目を見てぼやく。さながらヒーローショーの主人公、はたまた世界を救う勇者か。誇張表現でもなんでもなく、そう映ってしまうのだから不思議だった。きっと自分の知る司が演じれば、同じような表情を見せるのだろう。彰人の問いに応えるように、ツカサは伸ばしたのとは逆の手を己の胸に当てた。高そうな装束が汚れるのも構わず、膝が汚れるのも厭わず、地に膝をついたまま。「改めて。──オレはこの王国の騎士、ツカサだ。人々を守り、笑顔にすることこそがオレの使命。だからこそ、笑えない状況にあるのであれば、オレはお前の力になろう。」力強い言葉に惹かれるように、手を伸ばす。弱々しい力で触れるとしっかりと握り返された。吸い慣れない森の空気を、深く吸い込む。手袋越しに感じる微かな温もりに緊張をすっかり溶かされ、我ながら簡単だなと自嘲した。「彰人。あきと、です。……道に、迷った──みたいで。」言外に助けてくれと訴える。何かに、誰かに面と向かって助けを求めるのなんて、いつ振りだろう。少なくともこの男にそっくり似た相手に求めたことは、今まで一度も無かった。「助けて、くれませんか。」声に出したそれはみっともない響きを携えているようで、後悔を覚えかける。しかしツカサは彰人の言葉に当然だと頷いて、真っ直ぐに目を覗き込んできた。まるで彰人の全てを、肯定するかのように。「助ける。必ず、お前を。」2「さて。そうは言ったものの、まずは森を出ねばな。案内するから、歩きながら話を聞かせてくれ。」「はい。……あの、どこに行くんですか?」ツカサに手を引かれるままに立ち上がると、彼は恐らく森を抜ける方向へと目をやってからそう言ってきた。ここがどこかも分からない現状では、どこへ案内されるとしてもついていくしかないのだが、目的地は知っておきたい。そう思って尋ねた彰人に、ツカサは視線を戻して答える。「お前の家か、見知った場所が分かれば手っ取り早いのだがな。そう簡単な話でもなさそうだから、とりあえず町に行くとしよう。落ち着いて話せる場所がいいだろうな。──ああ、人目が気になるのであれば変えるが?」「いや、それで大丈夫っす。」ツカサの気遣う言葉に首を振る。知らない場所で知らない人々に囲まれると思うと断りたい気持ちもあったが、人気のない場所に行く方が気が引けると思った。少なくとも、こんな静かすぎる森の中にいるよりは雑踏に紛れた方がマシなはずである。彰人の答えにツカサは力強く頷き、承知した!と気持ちのいい返事をした。聞き慣れた声が、いつもより少し高い位置から振ってくることに違和感を覚える──座り込んで見上げているときには気が付かなかったが、実際に立って並ぶと、ツカサの方が10cmほど身長が高いことが分かった。自分の知る天馬司にはっきりと身長を聞いたことはないが、恐らく彰人と同じか、少し彼の方が低かったはずである。やはり目の前にいる男と、自分の想う人は別人らしい。どうしても顔も声も中身もそっくりなので、司本人と話しているような錯覚がしてしまうが。「……頭こんがらがりそうだな。」「……どうした?」「いや、……こっちの話です。行きましょう。」「そうだな。……ふむ。話を聞かせてくれとは言ったが、何から聞いたものかな……そも、彰人はどうしてこのような森に迷い込んでしまったのだ?」ツカサの問いに、やや後ろを歩きながら彰人は言葉を選ぶように目を泳がせる。──どうしてって、そんなことは此方が聞きたいくらいだ。「迷い込んだっつうか……目が覚めたらここにいたって感じで。オレにはここがどこなのかも、何で司センパイ──あんたがいるのかも、全然分からねえんですけど……あー。何から説明したらいいんだ……?」改めて状況を説明しようにも、そもそも何も分かっていないのだから上手く言語化できるわけもなかった。どうやってここに辿り着いたのかも分からない。ただの迷子とは訳が違うのである。早速頭を抱えてしまった彰人に、ツカサは「ならば、」と話を切り替えた。「この森で迷う前のことは、思い出せるか?」「迷う……前?」「ああ。目が覚めたら、と言っていたな。その前のことは覚えていないのか?」「それなら……、」混乱するばかりで、もやが掛かっていた頭にツカサの言葉で一筋の光が差す。同時に、なるほどと少し感心した。そうだ。今どうなっているかが分からなくても、それより前のことは覚えているはずじゃないか。これで記憶が全くなくなっていたら流石にお手上げだったろうけれど、思い出せるのならまだきっと望みはある。そう信じて糸を手繰り寄せるように思い出せる限りのことを思い出していく。土の道を踏みしめる度、徐々にクリアになっていく思考が、覚める前の記憶を呼び起こしていった。***「じゃ、また次の練習でね!」「杏ちゃん、東雲くん、青柳くん。お疲れ様。」「ああ、お疲れ。みんな気をつけて帰ってくれ。」「じゃあな。」達成感に満ちた顔で手を振って去って行くこはねと杏、そして冬弥に片手をあげて、軽く挨拶を交わす。最早日常の一部となった、チーム練習の帰り道。陽の沈みかけたビビッドストリートで仲間達と別れ、帰路につく。自宅へ足を進めながら思い返すのは今日の練習の成果と反省点、そして次の全体練習とイベントに向けた改善点等々だ。次のイベントまではあと三週間ほどある。日程的に切羽詰まっているというわけではないが、余裕があるからこそ、より完璧なものにしていきたい。同じ想いを持つ仲間たちもきっと、今日の練習を様々な視点で振り返ってアイディアを持ち寄ってくるだろう。次の練習では意見が飛び交い、話し合いの末に更なるブラッシュアップが行われるはずだ。それらに応えたいし、負けたくない。その一心で、脳内を巡らせた。伝説を超えるための日々は、最近は特に順調だった。明確な指標や数字では語れないからこそ、自分も含めたメンバーの一人一人がもっと上へと高みを目指して力を伸ばしている。以前では難しかった音域の曲へ挑戦することも増えたし、パフォーマンスにも幅が出てきた。イベントの主催側から声をかけられることも、珍しいことではなくなってきている。それだけ自分たちの実力が認められ、顔が知られてきたということなのだろう。(……けど、満足してる暇はねえよな。)“あの夜”へ到達するのは簡単なことではない。もっと経験を積んで、もっと実力を伸ばして。更に飛躍しなければならないのだ。たとえどれだけ険しい道のりだとしても、あの三人と一緒ならば、きっと辿りつけると確信していた。粗方考えがまとまったところで、少し冷えた風が頬を撫で、ふと空を見上げる。暗がりが深くなってきた夜空に、うっすらと星が浮かんで見えた。「星……。」──気が付けばキラキラと輝きを放つそれらに、ある人を重ね合わせていた。世界に羽ばたくスターになる、だなんて途方もない夢を堂々と豪語し、目映い照明に照らされながら一心不乱に舞台に立ち続ける男に思いを馳せる。最初は頭のおかしな唯の変人だと思っていた。まあその評価は今も変わってはいないのだけれど、何かの折に彼が披露するショーを見る度に、自分も負けてられない──と、そう思ってしまっていることも、事実だった。彰人たちと同じように彼もまた、遅くまで練習を重ねているのだろう。極めるものは違えど、あの男が夢へ向かっての努力を惜しまない人だということくらいは、接する内に分かってきていた。RAD WEEKENDを超える、という目標は彰人自らが掲げたものだ。その夢は自身の意志と仲間達の存在があってこそのもの。だから、その道程に第三者が絡む余地など、正直ないと思っていた、……のだけれど。自分や仲間たちと同じくらいの熱量で、夢に向かってひた走る彼を。印象が変わり、見る目が変わり、こうして思うだけで胸がざわつくようになったのは、果たしていつからだっただろうか。友人に向けるものとも仲間に向けるものともまるで違う、歌っているときも踊っているときも感じたことのない胸の熱さと高鳴り。その姿を見るだけで胸が焼けてどうしようもなくて、駆け寄りたいのに逃げ出したくなってしまうような葛藤に苛まれる。……それらの正体に気がつけないほど、彰人も子どもではなかった。「……少し走って帰るか。」誰に聞かせるわけでもなく、呟いて走り出す。急ぐ必要もなかったが、頭を綺麗にして帰宅したかった。この気持ちが。──彼に向ける気持ちが恋愛感情だと分かって、同時に仕舞い込んでいくことを心に決めた。当然と言えば当然だ。自分も相手も同性で、あの男が自分と同じように想いを向けてくれるとは思えない。ただの後輩、よりは親しい間柄な自覚はあるが、それ以上でもそれ以下でもないだろう。存外優しいあの男が、彰人が想いを打ち明けることで距離を取ったり態度を変えることは想像できないけれど──厄介なことを自ら起こしにいく趣味は、ない。今のまま、学校で顔を合わせたら軽く話をして、たまにからかったり軽口を叩いたりして、そんな当たり障り無い関係でいられればいい。互いの夢への刺激になれれば、それだけで充分最高だ。彼にとっても、彰人にとっても、それがきっと正解のはずだから。「はっ、は、──。」風を切って走るうちに、聞こえるのは自分の心臓と呼吸の音だけになる。雑音も、余計な考えもこそげ落とされていく。意識が透明になっていくこの感覚は何度味わっても気持ちが良いものだった。いつも渡る横断歩道が見えてくるが、素通りして、歩道橋を使うことにした。平坦な道を走るより階段を使った方が、下半身への負荷が大きい。走るペースはそのまま、駆け上がる。一気に足が重くなるが、腿を振り上げるようにして上っていく。目の前には星空があって、まるで手が届きそうな錯覚さえするのだから不思議だった。どうしても頭を過ぎる男のことは振り切れそうもないが、今に始まった事ではない。登りきったところでスピードを緩め、浅くなった呼吸の狭間に夜を吸い込む。道路を隔てた向こう側に降りて、少し行けば自宅が見えてくる。帰ったらストレッチをして、さっさと風呂と夕飯を済ませてしまおう──長風呂の姉に、先を越されなければいいけれど。そんな平凡な予定をぼんやりと組んで、階段を降りようとした。その時だった。「  」あまりにも、唐突だった。言葉を発する間もなかった。ドスン、と、背中に加わる衝撃。いくら鍛えていて、男であるとはいえ。受け身の体勢すら取れていなかった身体は背後からのそれに抗うこともできずに前へと傾き、ぐらりと視界が揺れる。傾いた身体を立て直すことも叶わない。目の先には、今まさに降りようとしていた階段と、遙か下には真っ黒なアスファルトが奈落のように口を開けてこちらを見上げていた。頭が真っ白になる。反射で手すりへと手を伸ばしたが、届かず、空を切る。星空に、両親、姉、こはね、杏、冬弥──様々な人の顔が浮かんでは消えていく。重力に従って身体が下へ、下へと落ちて、落ちて、落ちて。「──、」──ぶつり、と。視界が暗転する。意識が、そこで途絶えた。***「……ッ!!」──思い出したと同時、全身を冷たいものが駆け巡った。思わず両腕で身体を抱え込むようにして俯いてしまう。ドクンドクン、と心臓が大きく激しく脈打っていた。指が食い込むほど強く握り締め、その痛みにここは現実なのだと理解して安堵する。「彰人……?どうしたんだ、顔が真っ青ではないか。……気分が、悪いのか?」「……落とされた、んだ。」「え?」「オレ、階段から……突き落とされたんだ、誰かに。それで……!その後、目が覚めたらここに……。」突然立ち止まった彰人を不安そうな顔で覗き込んできたツカサが、その言葉に驚いたように目を見開く。今でもはっきりと覚えている。背中を何者かにもの凄い力で押されて、足が地面から離れ、空へと投げ出される感覚。浮遊感。走馬灯のように、色々な人の顔を見たことさえも、はっきりと。眠っているときに高いところから落ちる夢を見る時というのは、精神が不安定になっていることが多いのだという。しかし今思い出したあれは、夢でも何でもない、現実に起きたことで──だからこそ背筋を伝う冷や汗が止まらない。身動きできずに固まっていると、見かねたらしくツカサが近付いてきた。「怖い思いをしたのだな。……大丈夫だ。ここにはお前を傷付ける奴はいない。」全身を硬直させる彰人に、優しい声が降る。ふわり、と頭に何かが触れて、それがツカサの手だと分かる前に撫でられていた。何度か撫でられるうちに心臓の音も落ち着いてきて、恐る恐る顔を上げると目を細めて微笑まれる。一切の敵意ない笑顔に、肩に入っていた力が抜けていくようだった。「……も、平気です。」「む。そうか?彰人は強い子だな。」「そういう言い方やめてください。」まんまと宥められたことが気恥ずかしくて、ついでに子ども扱いされたようでムカついて、片手でツカサの手を払いのけるようにしてしまう。だがおかげで調子を取り戻し、また歩き出し──そこで、はっとなった。「身体……。」「?」「身体……どこも痛くねえ。」そう。そうなのである。かなりの高さから突き落とされたはずなのにも関わらず、手も足も自在に動く。それどころか、どこかを擦り剥いていて痛いということもない。……よく考えたら、これはおかしい。否よく考えなくてもおかしいが、目覚める前のことを思い出してようやく矛盾に気が付いた。ツカサも彰人が呟いた意味を理解したようで、小さく唸る。「確かに五体満足だな。階段から突き落とされたというならばどこか擦り傷くらいはできていてもおかしくないはずだが……どこも痛まないのだろう?歩き方も不自然なところはないし、な。」「は、はい。捻ったとかもなくて。」「そうか、無事に越したことはない、が……突き落とした奴が──或いは、別の誰かが治療を?しかしどちらにせよ、意図が読めんなぁ……。」考えても考えても残るのは謎ばかりだ。結局、二人で首を傾げることしかできなかった。誰が彰人を突き落としたのか。そしてどうしてこんな森に置き去りにしたのか。何故何事もなかったかのように、怪我一つないのか。……考えて結論に辿りつけるようなことでもないが、少しは糸口を掴めるかと思っていただけに落胆する──と。「……、あ。」解決するどころか増えていく謎に頭を捻らせていた彰人の視界が、急に開ける。それまで行く手を取り囲むように生い茂っていた木々が、ある一線を境に一切なくなっていた。代わりに見えるのは、広々とした丘に広がる草原、突き抜けるような青空、……そして。「ようやく抜けたな。ほら、あそこに見えるのが我が城下町だ。お前はあの町の人間ではない……のだよな?」そう、言って。ツカサが指差していたのは、見たことも無い世界だった。遠くへ望む巨大な城と、その下に広がる都市。遠目からでも分かるほどに高くそびえる城は見るからに立派で、国の権威そのものといった様相だった。まるで西洋にある国──テレビで見るような、まるで海外の雰囲気を携えたその城と町を見て。彰人は目眩すら覚える。どこだここは、なんて愚問もいいところじゃないか。だって、明らかにあれは。いや、本当はもうとっくに分かっていたのかもしれない。目の前に、よく知る男と同じ顔をした人物が現れたその時から。王国とか騎士とか、聞き慣れない単語を耳にしたその時から。ただ認めたくなくて、どうにか己の知る現実と今は地続きなのだとこじつけたくて、分からないフリをしていただけだ。「司センパイ……一つ、聞いていいですか。」「ん?ああ、何でも聞いてくれて構わんぞ。」「ここって、……地図上で言うと、どの辺りにある国なんすか。」予感に突き動かされるままに、ツカサに聞けば不思議そうにしながらも「少し待て」と今まで歩いてきた森を振り返った。手近に落ちていた木の枝を拾い、しゃがみ込む。彰人もふらつきながらそれを真似てしゃがみ込んだ。枝の先で茶色の地面を抉り、ツカサが地図を描いていくのを瞬きも忘れてじっと見守る。──彰人の、あまりにも現実離れした予想が形になっていくのを。「即席だから簡易的ですまないが……大体、この辺りだな。」ほどなくして描き終わった地面上の地図の一点を、ツカサが枝先で指し示す。「……。」言葉を失う。教えてくれた礼を言うのも忘れて、地面に釘付けになる。指し示された場所が分からなかったのではない。そんな些細なことではない。問題は、現実は、もっと大きなところにあった。(なんだ──この、地図。)恐らくは世界地図。……なのだろうか。いくら見詰めても、実感が湧かない。今自分たちが立っているその場所を指すべく描かれた、その地図は──彰人の知るものとは、まるで別物だった。大陸の形も、海の形も大きさも、その何もかもが、まるで人の手によって作られた偽物だ。例えば映画や漫画で見る、ファンタジーの世界で描かれるような作り物。つまり──。突然目覚めた、訳の分からない森の奥深く。階段から突き落とされたにも関わらず無傷の身体。示された地図。そして見据える先に在る、現実では有り得ない規模の王城と城下町。まるで理解不能な光景が次々に広がっていくのを、しかし彰人はどこか、あのストリートのセカイに始めて訪れた時と無意識に重ね合わせていた。そうか、と、今まで自らに降りかかった全てが腑に落ちる。震える唇が、思わず言葉を紡いでいた。「この世界は……、」きっと、自分のいた世界とは──別の、世界。3まるで海のように広がる草原を下り、町へ辿り着いた頃には、ここが別の世界だという予想は確信へ変わっていた。近付くごとにはっきりと見えてくる、町全体を囲う堅牢な石造りの城壁、レンガで出来た住宅や、塔のような建造物。海外映画にでも出てくるような風景が広がっているのをぼんやりと眺めていると、夢でも見ているかのような気分になってくる。むしろ夢であってくれれば、どんなに良かっただろうか。手描きの地図を見たことで、いよいよこの世界が元いた世界とは全く別物だと理解した彰人は、しかしツカサにそのことを言い出せなかった。彰人自身まだ半信半疑であるというのも勿論あるが、話して信じてもらえるかと言えば──恐らく、信じてはもらえないと思ったからだ。いくら王国とか騎士とかファンタジーじみた世界だとしても、突然「別世界からやってきました」なんて馬鹿げている。頭がおかしい奴だと思われ、かえって警戒されてしまいかねない。右も左も分からないこの状況で、唯一頼れる相手に余計な猜疑心を抱かれるのだけは阻止したかった。結局、地図を見てもよく思い出せないと誤魔化して、ツカサについていくことに決めたのである。どちらにせよ森に戻って野宿する羽目になるくらいならば、この男に手を貸してもらった方が良いと、そう結論を出した。「随分と歩かせてしまったが、疲れてはいないか?」「え?あー、いや……平気です。……つうか、なんか凄い町ですけど、オレ普通に入っていって大丈夫なんすか?」振り向いて声をかけてくるツカサに聞く。見るからに重厚な壁に囲まれた町を前にして、情けない話だが少し気圧されてしまっていた。何せこちらは丸腰で一文無しの男子高校生だ。この世界で高校生という肩書きが通じるのかは分からないが。何の力も持たず身分を証明も出来ない身では、よそ者は出て行けと追い払われれば引き返すしかなくなるのである。──別世界だと自覚した途端に悪い方向に考えを巡らせてしまう。らしくないが、仕方ないことだと言わせて欲しい。そんな彰人の不安を感じ取ったらしいツカサが、明るい声で笑った。「ハーッハッハッハ!大丈夫に決まっているだろう!このツカサがいるのだからな、大船に乗った気でいるがいい!」「はぁ……。」「全く信じていない溜息だな!?」まるで信用できないとでも言いたげな彰人の反応に、軽くショックを受けた様子のツカサだったが──ゴホン、と咳払いをして切り替える。「見てくれは厳格だが、迷い子を閉め出すほど無慈悲な場所ではないから安心しろ。それに何かあればオレが守ってやる。」「……っど、どうも。」声が上擦りそうになって慌ててしまう。いけない、思わずちょっとグッときてしまった。不安なところに不意打ちで言われたのだから仕方ない、と自分に言い聞かせて頭を振る。……顔も声も、名前も性格さえも同じだからうっかり元の世界のツカサと接している気になるが、そこはしっかりわきまえなければ。そうは思うのだけれど、正直、慣れる気がしない。慣れる前にさっさと帰れればそれが一番いいのだが。変わらずツカサの後ろをついていく形で町の入り口へ近付いていく。頂上まで見ようとすれば確実に首が疲れてしまいそうな高さの壁の一部が、大きくアーチ状にくり抜かれていた。どうやらそこが城下町への入り口らしく、映画などでしか見たことないような荷馬車や、大荷物を抱えた人々がちらほらと見受けられる。人々は皆、見慣れない服装をしていた。ベルトや装飾具の多いがちゃがちゃした見た目の者もいれば、上も下も布一枚で作ったようなみずぼらしい格好の者もいる。しかしそのどれもが現代で見る衣服とはかけ離れていた。Yシャツにパーカー、ブレザーという至って普通の制服姿のはずが、かえって浮いてしまっているような気さえした。いたずらに視線を集めてしまうのが嫌で、ついツカサに隠れるように身を寄せてしまう。ぽんぽん、と近付いた拍子に肩を叩かれる。見上げるとツカサは優しい笑顔を浮かべていた。その笑顔と仕草で変に入っていた力を抜かれる。……それに、緊張したところで、自分に何かできるわけではないということは変わらないのだ。彼の言葉を借りて、大船に乗った気で全て任せてしまおう。広々とした町の入り口では、それぞれ左右に列が形成されており、その先頭では何やら鉛色の鎧を着込んだ者たちが佇んでいた。鎧を着て動く人なんて初めて見るものだから、思わず目を奪われてしまう。見ると列に並んでいる人々は皆、その鎧を着た人物たちと言葉を交わしたり、紙のようなものを見せて町へ入っているようだった。よそから城下町へ入るのには手続きのようなものが要るということなのだろう──が、その長蛇の列に自分たちも並ぶのかと思いきや、ツカサはそれを素通りしてずかずかと列の中心を歩いて行く。「え!?ちょっ……、」ぎょっとして、早足で追いかける。ちらちらと刺さる周囲からの視線が痛い。恐らくはツカサに注がれるものがほとんどだと思いたかったが、残念ながら明らかに彰人へも注目が集まっていた。いたたまれなくなって、小声で抗議に出る。「司センパイ!その、すっげえ見られてんですけど……!」「む?そうか?」「そうか?じゃねえよ……!普通に並べばいいんじゃ、」「オレは騎士の身だからその必要はない。それに、この長蛇に並べばいつになるか分からんぞ。早いところ思い出す手がかりはお前も欲しいだろう。」それはそうだけど、と言い淀む。慣れたような顔しやがって。澄まし顔のツカサに立場も忘れて苛立ってしまった。どうやらこの世界のツカサも人から見られることを良しとする性格らしい。視線だけで辺りを見回し、ふむ、と頷いたかと思えば、「仕方ない。彰人、こっちへ。」「あ?な、何──」──ばさ、と布が翻る音が耳元でする。一瞬何が起きたか分からなかった。ただ、気が付いたときには強い力で肩を引き寄せられてツカサとほぼゼロ距離の隣にいて。先程まで少し前の位置で揺れていた紺色が身体に被さっていた。驚愕して目を剥く彰人に、ツカサは自慢げに「これで周りからはよく見えんだろう」と笑うのだから、冗談じゃないと藻掻く。確かに大船に乗ったつもりで任せるとは決めたがこんなことは望んでいない。「おい、何してん、ですか!や、やめろ、……嫌だって!」「ほら暴れるな、かえって目立ってしまうぞ。」「この格好のが逆に目立つっつうの!」今度は声を荒げて反抗する。ツカサは自らのマントを、引き寄せた彰人の姿を隠すように肩から被せて巻き付けていた。確かに服装は見られなくなるだろうが、むしろ今の姿で行列の中央を歩いていれば更に人目を引いてしまうもので。身体を引き剥がそうにも謎に強い力で肩を抱かれて離れられない。ひそひそと周囲がざわめいているのを聞き取ってしまい、イヤな汗が額を濡らした。ただでさえ変な場所へやってきてしまったのだからあまり悪目立ちしたくないのに、これではまるで意味がない。やはり別世界でも変人かこいつは、と焦りがピークに達するのと、町の入り口へ辿り着くのはほぼ同時だった。「お疲れ!オレだ、巡回からただ今戻ったぞ!」「つ、ツカサ殿……お疲れ様です。ええと……その子どもは?」よく響く声で名乗るツカサに、鎧姿の男は困惑したようにしながらも警察がするような敬礼の姿勢を取る。鉛色の奥から彰人を見ているのがいやでも感じられて消えたくなった。そりゃあマントでぐるぐる巻きにした男と戻ってくれば誰だって気になるだろう、だから嫌だと言ったのに。非難するような彰人の視線に気が付いているのかいないのか、ツカサは平然とした顔で事情を説明し始める。もちろん彰人に巻いたマントはそのままに。森で一人、倒れ込んでいたところを見つけて連れてきたこと。帰り道も分からないようだから、ひとまず落ち着いて状況を整理させてやりたいこと。他に頼れる人も検討がつかなそうだから、とりあえずはツカサが傍にいてやりたいこと。その為に町に入れてやりたい、ということ──ざっくりとした説明だったが、全てを聞き終わった後、鎧姿の男は意外にもあっさりと頷いた。「そういう事情がおありならば、つき返すわけにもまいりませんね。お気を付けて。」「そうか!理解、感謝するぞ!さあ、行くとしようか、彰人。」「ああ、でも一つ……そのままで町を歩くのはやめておいた方が良いかと。……どう見ても不審者を連行している様です。」「なぬ!?そうなのか!?」「だからやめろって言っただろ……。」呆れたように溜息を吐けば、目を白黒させながらもツカサは彰人の身体を解放する。その反応を見るに本気で周りの目から隠しているつもりだったのだろう。一体頭どうなってんだとうんざりしながら、門番にお礼も兼ねて一礼し、町への敷居を跨いだ。思っていたよりすんなりと入れてしまったことに拍子抜けしながらも、辺りを見渡すとやはり現代とは異なる作りの風景に緊張の糸は緩まない。漂ってくる何かの香辛料の匂いも、あまり馴染みがないものだった。無事に町へ入れたは、いい。が、果たしてここからどうすれば良いというのだろうか。元の世界に帰るにしても方法が分からないし、その方法を探るためにはしばらくこの世界で生きていく必要がある。……この身一つといった現状で、そんなことができるのだろうか。一つ課題をクリアしたと思えばまた立ち塞がる壁に、気が遠くなる。吸って吐く息が自然と重たく感じた。「……暗い顔だな。」「!あ、いえ、……。」見透かしたように、ツカサが声をかけてくる。ポーカーフェイスには自信があるはずなのに、あの男と一緒にいる時の感覚でつい素をさらけ出してしまっているようで情けなかった。それにあまり不安な素振りをしていては、ただの迷子ではないと勘付かれてしまうかもしれない。軽く頬を叩いて気合いを入れ直した。そんな彰人の様子を見て、ツカサは何かまた言おうとして──「……あ~!ツカサだ!」「ほんとだ!おかえり、ツカサ!もう見回り終わったの~!?」──突如として、甲高い、舌足らずな声が重なり合う。一様にして楽しげなその声音に、彰人はびくりと肩を震わせて聞こえてきた方向を見た。四人の幼い子どもたちが、おーいと手を振ってこちらへ駆け寄ってくる。キラキラと輝く大きな瞳たちは、元の世界であの男が演じるショーを見ている人々の目と、どこか重なって見えた。「お前たち!」ツカサも嬉しそうな声を上げて、子どもたちへ近付いていく。屈みこんで目線を合わせ、一人一人の頭を優しく撫でてやると、皆嬉しそうに笑い声をあげた。どうやらツカサをとても慕っているらしい。その懐き様に、まさか本当に彼の子どもなのかと一瞬頭が過ぎったが、「お母さんお父さんの手伝いはちゃんとやったのか?」というツカサの言葉でその疑惑は払拭される。さすがにないか、と独りごちた。「司センパイ、その子たちは?」「ん?あぁ、この辺りに住む子達でな。よく遊び相手をしてやっているんだ。」「そうなんすか……。」騎士というのは子守りの真似事もするものなのだろうか。正直よく分かっていないので、適当に頷くしかできなかった。彰人と話している間も、子どもたちはツカサの腕を引いたりマントを引っ張ったりして自分たちの方へ意識を向けようと躍起になっている。一度や二度遊んだくらいでは有り得ない懐かれっぷりだ。数人の子どもに囲まれている姿は微笑ましいが、もみくちゃにされている感もあってちょっと可笑しかった。「ねえツカサ、このお兄ちゃんだぁれ?」「おともだち~?」「よその国の人?」ふとした一人の発言で、子どもたちの無垢な瞳が、ざっと一斉に自分に集まる。反射で上辺の笑顔を貼り付けた。幼子の興味関心は移り変わりやすいとはいえ、急すぎやしないだろうか。助けを求めてツカサに視線を送り、誤魔化すように促した。「そいつはオレの客人……お客様、だ。これから町を案内するから、今日は遊んでやれない。すまないな。」「えー!そんな!」「ちょっとくらい良いでしょ~!?」──ぎゃんぎゃんと騒ぐ声が大きくなってしまった。町中はそれなりに人がいるとはいえ、子どもたちの声は周囲によく響く。ツカサも何とか納得させようと「また今度遊んでやるから」と宥めるが、通用しなかった。どうやらよっぽどツカサと遊ぶのを心待ちにしていたらしい。収めようにも、自分が何かを言うことで混乱させるのもどうかと思い、……彰人は子どもたちではなくツカサへ言葉を投げかけた。「センパイ。別に、平気っすから。少しくらい相手してあげてください。」「いや、しかし……。」「それにあんた言ってただろ、人を笑顔にするのが使命だって。」「……!」森で出会ったときに聞いた言葉。元の世界でも司がよく口にしていた台詞と近しいこともあって強く印象に残っていた。ここで彰人のために子どもたちを切り捨てるのは簡単かもしれないが、ツカサの生き方には反するだろう。ショーが見たいとねだる観客を前に幕を下ろすようなものだ。彰人の発言に一瞬だけ目を見開いたツカサだったが、すぐに頷いて元の溌剌とした笑顔に戻り、子ども達に向き直る。「……よぉし!ではお前たち!お兄さんもこう言ってくれていることだし、特別に!一曲、聞かせてやるぞ!」「わぁ、やったあ!」「あたし、この間のもう一回聞きたい!お花咲かせるやつ!」「ねえねえ、お兄ちゃんも一緒にきこう!ツカサの歌、すっごい楽しいんだよ!」「え、あ、ああ……うん、そうだね。楽しみだな。」くい、とジャケットを引っ張られて子ども達と並ぶ。ちらりと横目で見るだけでも、その期待の眼差しがツカサへ注がれているのが分かった。遊ぶ、というのだから鬼ごっことか隠れんぼを想像していたのだが、意外にも趣向は元の世界の司と同じだった。こちらの世界でも、人々を笑顔にする手段は変わらないのだろう。俯いて息を整える様子は、まさに開演前の役者の姿そのものだった。目を閉じたまま顔を上げ、大きく息を吸い込む。──長い睫毛に縁取られた陽色が開くと同時、彼の頭上からスポットライトが降り注いだような、そんな錯覚さえ覚えた。「『さあ、今、ここに!我が奇跡の歌で、荒野へ花を咲かせてご覧に入れよう!!』」両腕を広げ高らかに叫び、ツカサがメロディを口ずさみながら踊り始める。先程の大騒ぎはどこへやら、お喋りをやめて聞き入る子どもたちに倣い、現世では聞いたことのない旋律に耳を傾けた。話しているときとはまた違った優しさを含んだ声色が、鼓膜を揺らす。全身を躍動させるようなダンスは、元の世界で見たものをどこか彷彿とさせた。始まりを思わせるバリトンから、盛り上げを重視したテノールへ。聴き入ると同時に、歌を通して紡がれる物語に惹き込まれていく。──荒廃した地へ、緑を、花を、そして人々に笑顔を届けたいという想いを乗せた歌。(こういうところまで似てる……どころか、同じ、なんだな。)風貌は違えど歌声を聞いていれば、その歌に、彼が元の世界の司と同じような気持ちを込めているのが分かる。指先まで意識したダンスからは、一切の妥協なく洗練させているのが伝わってきた。この男は、あいつとは別人のはずだ。それなのに。クライマックスを迎えた歌声が空へ響く。不意に目が合って、優しく微笑んだ男の顔に、面影を感じずにはいられない。「やっと笑ってくれたな、彰人。お前のその笑顔が見たかった。」「……っ。」歌い終え、いつの間にか集まっていた観衆からの拍手を浴びながらツカサが柔らかく呟いた。そこで自分が笑っていたことに気付き、彰人は慌てて口元を手で覆い隠す。思惑通りになってしまったことが少し癪だった。ツカサは彰人のそんな仕草もどこか満足そうに見るだけで、辺りに集まった人々へ感謝の言葉を述べる。その姿は、さながらカーテンコールに立っているかのようだった。周囲に笑顔を振りまき、また聞きに来て欲しいと嬉しそうに言いながら一礼する背中を眩しく感じてしまう。てっぺんに昇った日の光が賑やかな通りを照らす。気付けば、町に入った時に感じていた重苦しい気分はすっかりと晴れていた。4「思いがけず時間を取らせてしまってすまなかったな、彰人。」「別に。いいですよ、そんな謝んなくて。」手を振って去っていく子ども達に二人で振り返しながら、軽くやりとりを交わす。ツカサは彰人を待たせてしまったと思っているようだが、実際、大した時間ではなかった。歌が終わった後にアンコールを強請られたときはどうなることかと思ったが、そこはきちんと聞き分けができる子達だったらしい。ツカサが「一曲だけと言っただろう」と窘めれば、残念そうにしながらも皆頷いて帰って行った。集まっていた町の人々も期待していたようで、惜しむ声を上げながら散っていくのを見送る。何もしていないのに、ツカサが歌と踊りを披露する時間を奪ってしまったようで申し訳なくさえ思う。そんな風に思っている余裕は、本来ないのだが。「……いつもああいうことしてるんすか?」「そうだな。いつも、と言うには低頻度だが。町へ下りる時は必ず見て貰っているぞ。皆、喜んでくれるからな!……あ、も、勿論、任務をしっかりと終えた後でだぞ?」「は、何でオレに言い訳してるんですか。」何故か慌てたように繕うツカサが可笑しくて思わず笑いが零れてしまう。その発言から察するに、一度その任務とやらを放って人々に歌や踊りを披露し、こっぴどく叱られたことでもあるのだろうか。一つのことに集中し過ぎるところも、どこかあの男と似ているようだ。クスクスと肩を震わせていると、表情を一変させてどこか嬉しそうに微笑まれ、きょとんと首を傾げてしまう。「?……どうしたんすか、人の顔ジロジロ見て。」「はは、すまん。助けると言ったくせに、真っ先にオレの方が手を貸されてしまったなと思ってな。……先程はありがとう、お前の気遣いのおかげで、子どもたちの笑顔の芽を摘まずに済んだ。」「別にお礼言われるほどのことじゃ……。」「いや!言うほどのことだ。この借りは返す、……と言うのは少し違うかもしれんが、オレも必ずお前の力になると誓おう。」──仰々しい言い方できっぱりと宣誓され、少々恐縮してしまう。力を貸すと言い切ってもらえたこと自体は有り難いが、果たしてそこまで感謝されるようなことだっただろうか。初対面で見ず知らずの相手を町まで案内してくれたことに対し、こちらは少し子どもたちと遊ぶ時間を持たせただけ。どう考えてもそこに釣り合いは取れていないと思う。……が、ここで何を言ってもツカサが意見を変えそうにないのもなんとなく察したので、黙って頷いておくことにした。そこにどんな思惑があったとしても、協力を申し出てくれるのを無下にする理由もない。恐らくは昼時なのだろう、ふと気付けば通りのあちこちから美味しそうな匂いが漂ってきた。ガヤガヤしていた人混みも減り、歩きやすくなったように感じる。代わりに建ち並ぶ店の中から、楽しそうに談笑する声が聞こえていた。別の世界でも変わらない昼食時の雰囲気に、そういえばこちらに来てから飲まず食わずだったな、とぼんやり思い至る。これが夢であれば空腹など感じなかったかもしれないが、こんな異常事態でも腹は減るし喉は渇く。人の身体というのはどこまでも通常運転だ。「ふむ。そういえばランチがまだだったな。丁度良い、軽く何か食べながら今後について話すとしよう。彰人、苦手なものはあるか?」「あー……いや、特にない、です。何でも平気です。」本当はあるのだが、余計な気を遣わせるのもどうかと思ってそう返す。彰人の答えに、ツカサはこの国の食事は何でも美味いから期待してくれと胸を張った。現代とは全く雰囲気が異なるとはいえ生きている人達は普通の人間だから、食事に関しては不安にならなくて大丈夫だろうか。すぐ近くにあった、明るい雰囲気の店へ入っていくので着いていく。見てくれは元の世界にもあるイタリアンの飲食店と似ていて、ちらりと覗けば他の客が食べているのもそれに近しいものだった。トマトソースのパスタや、チーズがたっぷり乗ったピザのようなもの。雪のようなジェラートを頬張る幼い子どもも見受けられる。どうやら食べ物に関しては、不安要素はなさそうだ──お金がないので一人では店に入れない、ということを除けば。小声で「手ぶらだけど大丈夫か」と聞けば、さも当然のように「奢るに決まっているだろ」と返事をされる。……予想通りの返答で有り難い限りだが、あまりにも彰人に都合が良すぎて怖ささえ感じた。ツカサの顔の広さは飲食店でも同じようで、中年の女性店員は顔を見るなり喜んで出迎えてくれた。日当たりの良い席が空いているから、と窓際の席に通される。何人かのお客にまで声をかけられるのに笑顔で応えるツカサをぼうっと見ながら、ようやく椅子に腰掛けると同時にどっと疲れが押し寄せてきた。普段はあまりしないのだが、背もたれにだらりと身体を預けてしまう。思えば慣れない森の道を抜けて草原を下り、町中でも腰を落ち着ける暇もなかったのだから疲れて当然だ。彰人の表情から疲れを汲み取ったのか、ツカサがテーブルの傍らに置かれたガラス製のピッチャーを手に取って水を注いでくれる。「さすがに疲れただろう、話は少し休憩してからにしようか。」「はい。……あ、どうも。」グラスに注がれた水を受け取って一口飲む。ただの天然水ではないようで、ほんのりと柑橘系の味がした。レモンとオレンジの中間のような爽やかな口当たりと、喉を過ぎていく冷たさに一息つく。見ると、彰人が一口を飲む間にツカサは二杯目をグラスに注いでいるところだった。──一口がデカい。「司センパイ、あんまりガブガブ飲んでると腹下しますよ。」「むっ、そ、そんなガブガブと言うほどではないだろう。」「いや飲んでますね。見てるこっちの身体が冷えそうです。」「お前……調子が出てきたな。」苦笑し、手にしていたグラスをテーブルに置き直すツカサはそれでもどこか嬉しそうだった。確かに森で会ったときよりは、余裕が出てきたような気がする。軽口を叩ける程度には。ツカサの歌と踊りで、良くも悪くも気分が晴れたのだと思う。自分が置かれている状況を理解し、命の危機はないと分かったからというのもあるだろうが。ただ、一歩も進展はしていないのも、また事実だった。──ツカサに力を借りるのは良い。が、下手なことを言って怪しまれるリスクを冒すわけにもいかない。とすれば、彰人自身の手で、別の世界の人間であるとバレないようにしながら元の世界へ帰る手立てを探さなければいけないということだ。なかなか骨が折れそう、というかほぼ無理難題である。意味がないと分かっていても、本当にどうして自分がこんな目に合わなければいけないのかと恨めしく思わずにはいられなかった。これからのことを薄らと考えていると、ツカサに呼ばれ、顔を上げる。見るとこちらへメニュー表を向けていた。何にするか選べということらしい。奢らせてしまうのだからせめて安いものにしよう、と渡された表を受け取って──思わず顔を顰める。(……!?な、何語だ、これ……。)……メニュー表に羅列している文字は、彰人が見たこともないものだった。当然日本語でもなければ学校で習うような英語でもない。一文字一文字を区切ってみようとしても、全て繋がっているようで解読できそうもなかった。ぐにゃぐにゃとしていて、まるで園児が適当に書いた落書きのようだ。どうやらこの世界は地図だけでなく、文字の作りまで全く違うものらしい。それならばどうして話す言葉は通じるのか、甚だ疑問だが。「……?どうした、彰人。」「あ、……っと。決められないんで、オレも司センパイと同じでいいっす。」「そうか……。よし、では同じものを二つ頼むとしよう。」咄嗟にそう答える。この世界の言語事情がどうなっているかは知らないが、今まさに会話できている相手に対してまさか文字が読めないとは言えるわけもない。メニュー表を見るなり固まってしまった彰人を不思議に思ったようだったが、ツカサはすぐに頷いて店員を呼びつけた。余計な詮索をされなかったことに胸を撫で下ろす。席に案内してくれたのとは別の、男性店員がやってきた。これを二つ、と表を指差すツカサの注文を聞き、ちらりと彰人の方を見て去っていく。──やはり見慣れない男がツカサと一緒にいるというのは、どうしても注目を集めてしまうようなのでもう諦めることにする。元の世界でも司と話しているときはそうだったのだし、同じだと思えば気にならなくなるだろう。多分。「司センパイって本当に顔が広いっつーか……行く先々で声かけられてますけど、町での仕事が多いんすか?」「そんなことはないぞ?……ふっ、そうだな。言うなればオレの騎士としての輝きが人々を惹きつけてしまう、というところか。」「へえ。」「明らかに興味のなさそうな反応をやめろ!」「真面目に答えてくんないからですよ。」「至って大真面目なんだが……そうだな。後は物珍しさ、だろうな。」「……物珍しさ?」ピンと来ない物言いに、訝しげな顔をしてしまう。ツカサのような『騎士』が町を歩くというのは珍しい事、という意味かと思ったが、町の入り口には鎧姿の門番たちがいたし、恐らくはパトロールで辺りを見回っている兵士も見受けられた。他にも様々な格好をした人々が町を闊歩していて、ツカサだけが浮いていたなんてことはないように思える。どちらかと言えば浮いていたのは彰人の方だ──制服的な意味で。自分がそう思い込んでしまっているだけで、実際はそこまで目立っていることもないとは思いたいが。この世界でこの先動いていくなら、服装も合わせて変えていかなければこの不安も解消されないことだろう。閑話休題。いまいち理解できないでいる彰人に、ツカサが補足するように言葉を続ける。「オレはトウヤ皇子の護衛騎士だからな。本来ならば城を一歩も出ず、つきっきりで殿下の御身をお守りするべき立場なんだ。そこをオレの我儘で、ちょっとした町の見回りや城壁外の巡回任務も兼任させてもらっている。……言うなれば民にとって、オレも殿下と同じくらい日頃目にかかれない存在、というわけだ。珍しがって声をかけてくれるのも当然だろう。」「……え?あ、……んん?」「オレも守るべき民の顔を見ることができて、これ以上に嬉しいことはないからな。無理を聞いて下さっている陛下には感謝をしている。……過剰な仕事を、と思われるかもしれんが、オレは今の生き方が気に入っているしな。」顔を綻ばせて語るツカサと裏腹に、一気に情報を渡された彰人は混乱する。何かとんでもないことを立て続けに知ってしまった気がして脳が小さく悲鳴をあげた。完全にキャパオーバーというやつだ。ただ、その中でも聞き捨てならない単語だけはどうにか掬い上げる。「トウヤ……って。」「む?」「この国の、その、王子って……トウヤって言うんですか。」「ああ!もしや聞き覚えがあるのか?」聞き覚えがある、なんてものじゃない。切れ長のライトグレーと、ツートンカラーの青髪。正確無比かつ滑らかな旋律を奏でる喉を持つ、唯一無二の、彰人の相棒。その顔が脳裏に過ぎって、一気に鼓動の音が速くなった。この世界のツカサも、現実世界の司と同名だった。そこで突如現れた、相棒の名前。この世界にも『トウヤ』は存在するのか。例えそれが、自分の知る冬弥とは別人であったとしても──。「──あの、」全身の血が沸騰するかのような感覚。もっと、知りたい。もしかしたら他にも、聞き覚えのある人物の名が出てくるかもしれない。そしてもしかしたら、元の世界に帰る手がかりになるかもしれない。そんな期待から声を上げた彰人だったが、「おお、彰人!料理が来たようだぞ。」「!……あ、ああ。……そうすね。」店員とツカサの無邪気な声と共に、運ばれてきた料理が次々と机に並べられ、たちまちにそんな雰囲気ではなくなってしまう。ツカサが頼んだのはアクアパッツァとバゲットだったようで、食欲をそそる香辛料と焼きたてのパンの香りが辺り一杯に広がった。話の続きが気になるとはいえ空腹には抗えず、腹の虫が小さく鳴く。知っている料理だったこともあるかもしれない。「冷めないうちに食べよう。いただきます!」「いただきます。」にこにこと嬉しげに料理に手をつけ始めるツカサを前にしては、もっと他の人の話を聞かせて欲しいとは言えず彰人もフォークとナイフを手に取る。魚を一匹丸ごと使った贅沢なアクアパッツァは、見た目の豪快さに比べて食べやすい美味しさだった。シンプルな味付けに、ふわりと生姜に似たスパイスが香る。空腹を差し引いても、肉厚な白身魚は絶品だ。少し塩っ気の強い味付けのおかげで、ついパンに手が伸びる。食べながら、ふと静かになったツカサを見ると、同じように夢中で食べていた。騎士というくらいだからもっと上品に食べるかと思っていたが、大口を開けて結構な勢いでバクバクと食べている。思えば彰人を見つける前から森の中を歩いていたようだし、相当にお腹が空いていたのではないだろうか。全くそんな素振りは見せなかったけれど。「美味いな!」「はい、美味いっす。」空腹の男二人が交わす言葉などその程度で、後はお互い無言で食べた。まさか知らない世界でこんな食事にありつけると思っていなかっただけに、噛みしめてしまう。ごちそうさまをするのはほぼ同時だった。すっかり綺麗になった皿を前に一息ついていると、食後のデザートとしてアイスクリームが運ばれてきた。桃色のそれはベリー系だろうか、ツカサが頼んでいたのかと思えば、当の本人もぱちくりと目を瞬かせている。店員を見れば笑って「サービスだ」とだけ言って去っていった──恐らくはツカサへのだろうが、有り難くおこぼれに預かることにする。甘酸っぱいラズベリーに似た味のアイスを口に含む。広がる冷たさと甘さに、心が解けていくのを感じた。そのままスプーンを口に運んでいると、視線を感じる。見れば向かいに座ったツカサが、何やら真剣な面持ちでじっとこちらを見据えていた。朗らかな笑顔が印象深いからだろうか、真っ正面から真顔で見詰められるとドキリとしてしまう。ツカサは彰人からの視線を受けて、何やら気持ちが定まったような顔をした。アイスクリームをつついていたスプーンをテーブルに置き、その手が組まれる。長い指先が思わせぶりに絡んでいくのを見ているだけで、何か重要なことを言われようとしているのだと分かって思わず唾を飲み込む。自然と、彰人も真似るようにスプーンを置いていた。「彰人。もし、お前が嫌でなければの話なのだが。」「……?」「──オレと共に、城へ来ないか?」目を見開く。その表情は真面目そのもので、冗談はやめろと返すのも憚られた。とうに昼時は過ぎ、少しは落ち着いたとはいえ、まだ店にはそれなりの客がいたはずだ。しかしツカサの言葉を聞いた瞬間、周囲の喧噪が全てどこか遠くへと消えていった。曰く、「この町に知り合いもいなければ、今日寝る場所もないのだろう。見たところ先立つものもないようだし、そんなお前をこのまま放っておくのも、寝覚めが悪い。」曰く、「訳を話せば、城の皆も分かってくれると思う。もし何か言ってくる者がいたとしても、オレが何とか説得する。」曰く、「それにトウヤ──殿下の名を口にしたとき、彰人にも何か引っかかるものがあったのだろう?顔を見れば分かる。あの方もお忙しい身だから直接の謁見には時間がかかるかもしれんが、近しい場所に身を置くことは何かを思い出す手がかりになるかもしれん。」淡々と動く唇を見て呆然とする。立て続けに捲し立てられ、アイスクリームが溶けていくのも構わずじっと耳を傾けてしまった。至って真剣な口ぶりから、ツカサも真面目に提案してくれているのだと分かる。その申し出は、彰人にとって願ってもないことだった。寝る場所も先立つものもない、というのは情けないことに事実だし、ここでツカサに後は頑張れと背を向けられても困る。行き倒れるのは必至だっただろう。だが精々、信頼できる施設や人へ預けられる程度だと思っていた。──まさか王城へ誘われるなんて。「……。」いつの間にかテーブルの上で握り締めていた掌にじっとりと汗をかいていた。眼差しを真っ直ぐ受け止めて、どくどくとうるさい心臓を冷静に鎮めようと努める。……既に答えは決まっていたが、やはり一も二もなく頷くには大きすぎる提案だった。まだこの世界のことを深く把握できたわけではない。聞きかじった情報と、元の世界で見たファンタジーものの漫画や映画で聞く単語を結びつけて、無理矢理に理解をしようとしているに過ぎない。それでも王族直属の騎士が、身寄りのない一人の少年を王城へ連れ帰るということが、周りにどう映るのか──というのは、さすがの彰人でも予想がついた。ついた上で、けれど。この提案を蹴ることがこの先どう影響してくるかなんて、考えずとも分かる。「司センパイ、は。」「……、」すぐには頷かず、やっとのことで口を開いた彰人を、しかしツカサは急かさなかった。じっと、まるで全てを照らすかのような陽色の瞳が彰人を見据えている。元の世界でも、彼に真っ直ぐ見詰められるのは、自分の全てを見通されているかのようで苦手だった。考えも、思いも、その何もかもを。だからツカサの、黒革の手袋に覆われた指先に視線を落としながら言葉の続きを紡ぐ。「──どうして、さっき会ったばっかりのオレに、そこまでしてくれるんですか。」「既に、お前には伝えたはずだぞ。人を笑顔にすることが、オレの使命だからだ。」間髪入れずに返ってきた答えに、感嘆する。きっとこの人もあの男と同じだ。人々の笑顔の為ならば、なりふり構わず行動できる人。以後、それ以上の言葉は不要だった。──そんなやりとりを経て、現在。店を出た彰人はツカサに連れられるままに、城までの道を歩いていた。石畳の道を行きながら、時折町の人々に声をかけられ、城へ段々と近付いていく。この角を曲がると美味しいパン屋があるとか、この通りは日が暮れると暗いから一人で歩くときは気をつけた方が良いだとか。他愛ない話をするツカサはとても楽しそうだった。余程、この城下町が好きなのだろう。その様子を見ていて、ビビッドストリートについて語る杏が思い起こされた。彼女もまた、自分の生まれ育った街を大切にする人だ。その熱量ならばツカサにも引けを取らないだろう。「……ん?」つらつらとそんなことを考えながら足を進めていると、ふと違和感を感じた。と言うよりは少しずつ感じていたものが顕著になり始めた、というのが正しい。きょろりと辺りを見回す彰人に気付いたツカサが、軽く肩を叩いてくる。前を向いて歩かなければ危ないと小言でも言われるかと思ったが、心配されているだけのようだ。気遣うような目がそれを物語っている。「何か気になることがあるか?」「そういうんじゃ……いや、大したことじゃないです。ただ……何か、空気が変わったような気がしたっつうか……。」「ふむ、やはりそうなのか。」「やはり?」「ああ。この辺りには、魔道士が多く暮らしているからな。」まどうし。またファンタジーなワードだ。口の中で転がしながら、ツカサの説明を待つ。「王城付近に魔道士が多く集まるのは、他の国でも同じなのだがな。この国は特にその傾向が強いから。魔力に敏感な者はよく分かるらしい……まあ、オレは生憎魔道には明るくないから、特に何も感じないし、普通に城に近付いてるなとしか思わんのだが。」「……そう、なんすか。」「それが分かるということは、彰人ももしかしたら魔道に精通した国の出なのかもしれんな。」そんなわけあるか、というツッコミを飲み込む。適当に頷いて誤魔化した。この世界には、魔法も存在することすら今初めて知った。ますます現実離れした事実に頭が痛くなる。だが、話を聞くうちに城に近付くにつれて感じていた違和感についても、なんとなく理解した。もちろんその魔力とかいうやつを感じ取ったわけではない。『音』だ。そこで生活する人達が発する、音。それが、城の近くと遠くでは明らかに違う。町の入り口──いわゆる「普通の人々」が住んでいる辺り。あの辺りは平民が暮らしていて賑やかだったが、恐らく城に近い場所に住む人々は、身分も気位もそれなりに高い人が多いのだろう。だから聞こえてくる話し声や人の気配なんかが丸っきり違う、それだけのことだ。訳の分からない世界で訳の分からない力に目覚めたとか、そんな事まで起こってたまるか。どこかピリッとした雰囲気の場所を、少し肩に力を入れて歩いて行く。遠くから見ても遠近感の狂ってしまいそうな大きさだった王城は、近付くごとにその迫力を増していた。白い石造りの壁に青い屋根の組み合わせは爽やかで、清廉な印象を受ける。周囲に張り巡らされた水路や城全体をぐるりと囲う城壁が、ここが立派な権威の象徴であることを示していた。これが観光であればきっと楽しめたのだろうが、今の彰人には緊張を助長させる威圧でしかない。が、ここ以外に身を置く場所がないのが現実だ。ついでに言えば本当に身を置けるかも、隣を歩く男の双肩に掛かっている。「明日、城の中を案内してやろう。広いからとても一日では回りきれんがな。」当の本人は全くその重大さが分かっていないようで、呑気にそんなことを言っているが。一日では回りきれないってなんだ、ここはテーマパークか。あまりに緊張感がなさすぎるツカサを横目で軽く睨みながら正門に辿り着くと、やはりと言うべきか町の入り口同様に門番が構えていた。そして彼の姿を認めるなり、各々が一斉に敬礼する。ツカサが片手を上げて応え、口を開いた。「──ご苦労。突然だが一人、通して貰いたい客がいる。」門番たちに先を越される前に切り出したツカサが、町でもそうしたように事情を掻い摘まんで説明していく。思えばこれで二度目だが、これからツカサは彰人を城に入れることで、同じようなことを繰り返し色々な人に説明しなければならないはずだ。皇子の護衛騎士、と彼は言っていたが、それほどの役職を持つ騎士に更にそんな手間までかけさせていいものだろうか。いや、そうしなければ彰人は行き倒れてしまうだけなのだが。そんなことを考えながらツカサが門番たちに話をつけるのをじっと見守り、ようやっと許可が下りたところで声をかけられた。今回もやはり、『ツカサの判断なら』とオッケーが出た形だ。思わず背筋を伸ばして、いよいよ敷地へと足を踏み入れていく。正門を抜け、長い石の階段を上って少し歩いたところでようやく城門を拝むことができた。鋼鉄で出来た格子状の扉がガラガラと大きな音を立てて開いていくのを見ながら、心臓が変な動きをしているのを感じる。ここから先は正に、別世界中の別世界だ。(マジで、とんでもねえことになっちまったな……けど、)元の世界に帰る手がかり。それがどこにあるのか、皆目見当はつかなくても。どうにかして見つけ出さなければ。自分には、帰るべき場所と叶えたい夢があるのだから。その想いだけで、重くなりかけていた足を動かす。恐らくは玄関口である巨大なホールと気が遠くなりそうなほど高い天井が、彰人を出迎えた。外観に負けず劣らず豪奢な作りをしているようで、現実を見なければそれこそ観光気分だ。石造りの壁にはあちこちに細かな装飾が掘られたり、彫刻が点在したりしている。絵名が見たら参考にしたいと写真を撮り出すだろうな、と姉の顔を思い出した。「慣れない地で色々と歩かせてすまなかったな。すぐ部屋を手配するからもう少し辛抱してくれ。」「はい。……辛抱とか、ないですよ。こっちは世話になる身なんだし。」「ははは、それを言ったらこっちはもてなす身だぞ。」「そういうんじゃなくて。」どうにも噛み合わない応酬をする。ツカサは大真面目で言っているらしく、彰人の返しに不服そうな表情を浮かべていた。客、と何度か表現されたが、住む場所を提供してもらうのだから居候のほうが近いだろうに。やはりどこか人と感覚がズレているのではないだろうか。そう言ってやろうと彰人が口を開きかけた時だった。「──おや?ツカサくんじゃないか。随分と楽しそうだねぇ。」「む?」「え、」軽く弾む、聞き覚えのある声。楽しそうなのはその声色の方で、しかしそこに含まれる僅かな棘に撫でられるかのように、ざわりと肌が粟立った。喉を震わせ、ゆっくりと振り向く。果たしていつからそこに居たのか、背後に立つ男を見て、彰人は開いた口が塞がらなかった。「……か、」「ルイ。珍しいな、お前がこんな場所にいるなど。」名前を呼びかけた彰人の声に重なるようにして、ツカサが本当に物珍しそうにそう言う。肩を震わせて笑う度揺れる紫色の髪が、その笑みに影を落としていた。金色の瞳を細めて、意味ありげな視線を向けてくるその人は、他でもない。「何か楽しそうなことが起きそうな予感がしてね。……それでその子は、どちら様だい?」元の世界では、司と並んで変人ワンツーフィニッシュと名高い異名を持つ人物──神代類。その男にうり二つの青年だった。
「嗯,看起来不是外伤或疾病呢。一个人待在这种地方,肯定很不安吧。现在没事了。」「……你到底是谁。」她呆呆地看着男人的眼睛,喃喃自语。就像是英雄秀的主角,或者是拯救世界的勇者。并不是夸张的说法,竟然会这样映入眼帘,真是奇妙。想必自己所认识的司如果演绎的话,也会露出类似的表情。回应彰人的提问,司将伸出的手反方向放在了自己的胸口。毫不在意华丽的装束会弄脏,膝盖也不在乎,跪在地上。「再说一次。──我是这个王国的骑士,司。保护人民,让他们微笑是我的使命。因此,如果你处于无法微笑的状况,我会成为你的力量。」被他坚定的话语所吸引,伸出手去。用微弱的力量触碰时,他却紧紧握住了。深吸一口不习惯的森林空气,手套间传来的微弱温暖让紧张感完全消散,自己也不禁自嘲起来。「彰人。是彰人……好像迷路了。」言外之意是在请求帮助。面对某个东西、某个人请求帮助,已经有多久没做过了呢。至少从未向这个和他极为相似的人求过。「能帮我吗?」说出这句话时,似乎带着不堪的回响,几乎感到后悔。然而司却理所当然地点头,直视着他的眼睛。仿佛在肯定彰人的一切。「我会帮助你。一定会的。」2「那么。虽然这么说,但首先得离开森林。跟着我走,边走边告诉我你的事。」「好的……那个,我们要去哪里?」被司牵着手站起来后,他朝着可能是离开森林的方向看去,然后说道。在不知道这里是什么地方的情况下,无论要去哪里都只能跟着,但还是想知道目的地。这样想着问了彰人,司将视线转回回答道。「如果你能告诉我你的家或熟悉的地方,那就简单多了。不过看起来不是那么简单,所以先去镇上吧。应该是个可以安心交谈的地方。──啊,如果你在意人目,我可以换个地方吗?」「不,没关系。」对司的关心摇了摇头。想到在陌生的地方被陌生人包围,虽然有拒绝的想法,但觉得去人少的地方更让人不安。至少,混在热闹的人群中总比待在这么安静的森林里要好。对彰人的回答,司坚定地点头,愉快地回应道。熟悉的声音从比平时稍高的位置传来,感到一丝不适──坐着仰望时没有注意到,但实际上站在一起时,发现司比自己高出大约 10 厘米。自分所知的天马司并没有明确问过他的身高,但他可能和彰人差不多,或者稍微矮一点。眼前的这个男人,似乎和自己心中想的人是不同的。无论是脸、声音还是内在,都太像了,以至于让人产生和司本人对话的错觉。“……头有点混乱呢。”“……怎么了?”“不,……这是我的事。走吧。”“是啊。……嗯。我虽然说过想听你的故事,但从哪里开始问呢……首先,彰人为什么会迷失在这样的森林里?”对于司的提问,彰人稍微往后走,像是在选择词语,眼神游移。──为什么,反倒是我想问这个。“迷失……也不是,醒来时就发现自己在这里。对我来说,这里是什么地方,为什么司前辈──你在这里,我完全不知道……啊。该从哪里解释呢……?”即使想重新解释情况,但根本什么都不知道,根本无法好好表达。连自己是怎么来到这里的都不知道,这可不是普通的迷路。彰人立刻抱住头,司则转移了话题:“那么,在迷失这片森林之前的事情,你能想起来吗?”“迷失……之前?”“啊。你说醒来时的事。那么之前的事情你不记得了吗?”“那样的话……,”脑中一片混乱,模糊的思绪在司的话语中闪现出一丝光亮。同时,心中也稍微感到惊讶。没错。即使现在的情况不明,之前的事情应该还是能记得的。如果完全失去记忆,那可真是无计可施,但如果能想起来,那就还有希望。抱着这样的信念,像是拉扯着线索,努力回忆起能想起来的事情。每一步踏在土路上,逐渐清晰的思绪唤起了醒来前的记忆。***“那么,下次练习见!”“杏酱、东云君、青柳君,辛苦了。”“啊,辛苦了。大家回去时注意安全。”“那再见。”满脸成就感的こはね和杏挥手告别,冬弥也轻轻举手打招呼。已经成为日常一部分的团队练习归途。在夕阳西下的鲜艳街道上与伙伴们道别,踏上回家的路。走在回家的路上,脑中回想着今天练习的成果和反思点,以及下一次全体练习和活动的改进点等等。距离下一个活动还有大约三周的时间。虽然时间上并不紧迫,但正因为有余裕,才想要做到更完美。拥有同样想法的伙伴们,肯定也会从不同的角度回顾今天的练习,带来各种想法。下次练习时,意见会交错,经过讨论后会进行进一步的提升。我想回应这些,也不想输。在这个心态下,我在脑海中思索。超越传奇的日子,最近特别顺利。正因为无法用明确的指标和数字来表达,所以包括我在内的每个成员都在向更高的目标努力提升自己的能力。以前难以挑战的音域曲目也变得越来越多,表演的幅度也在扩大。活动主办方主动联系的情况,也不再是稀罕事。这说明我们的实力得到了认可,脸也逐渐被人熟知。(……不过,没时间满足现状。)到达“那夜”并不是一件简单的事。必须积累更多的经验,提升更多的实力。还需要更进一步。即使路途再艰难,只要和那三个人在一起,我相信一定能到达。大致理清思路后,微凉的风轻轻拂过脸颊,我不由得仰望天空。在逐渐加深的夜空中,星星隐约可见。“星星……。”──不知不觉中,我将那闪烁的星星与某个人重叠在一起。那是一个自信地宣称要成为世界级明星的男人,在耀眼的灯光下全神贯注地站在舞台上。起初我以为他只是个头脑不正常的怪人。虽然这个评价至今没有改变,但每当看到他在某个场合展示的表演,我也会不由自主地想,自己不能输──这也是事实。和彰人他们一样,他也在熬夜练习。虽然追求的东西不同,但我逐渐明白,那个人是一个不惜努力追逐梦想的人。超越 RAD WEEKEND 的目标是彰人自己提出的。这个梦想正是因为有他自己的意志和伙伴们的存在才得以实现。因此,我本以为在这条道路上,第三者是没有插手的余地的……但。与我和伙伴们一样,怀着同样热情向梦想奔跑的他。印象改变,视角转变,单单这样想就让我心中波动不已,这究竟是从何时开始的呢。对朋友和伙伴的感情截然不同,唱歌和跳舞时感受到的那种从未有过的心潮澎湃与热烈。光是看到他的身影,心中就如同被烧灼一般,想要冲上去却又想逃避的矛盾折磨着我。……连这些情感的真实面目都无法察觉,彰人也并非孩子。“……稍微跑回去吧。”并不是为了让谁听见,我低声自言自语着开始跑。并没有急于回家的必要,但我想清理一下脑袋。这种心情。──当我意识到对他的感情是恋爱时,同时也下定决心要将其收起。说是理所当然也不为过。毕竟我和对方都是同性,根本不相信那个人会像我一样对我有情感。只是后辈,虽然意识到彼此关系比一般更亲近,但也不过如此。想象不到那个意外温柔的男人会因为彰人坦白心意而疏远或改变态度——他并没有自找麻烦的兴趣。只要在学校见面时能轻松聊聊,偶尔开开玩笑,保持这种无关紧要的关系就好了。如果能成为彼此追梦的动力,那就已经足够完美了。对他来说,对彰人来说,这一定是正确的选择。“哈,哈,──。”在风中奔跑时,耳边只听到自己心脏和呼吸的声音。杂音和多余的思绪都被剔除。意识逐渐透明的感觉,无论多少次体验都让人感到愉悦。总是经过的斑马线出现在眼前,但我选择了不经过,而是走上了天桥。相比于在平坦的道路上奔跑,使用楼梯对下半身的负担更大。保持着原来的速度,向上冲去。腿部瞬间变得沉重,但我努力抬起大腿继续向上。眼前是星空,仿佛触手可及,真是奇妙。脑海中挥之不去的那个男人,似乎无法摆脱,但这并不是新鲜事。到达顶端时放慢速度,浅浅地吸入夜晚的空气。走下隔着马路的另一边,稍微走几步就能看到家。回去后做拉伸,赶紧洗澡和吃晚饭——希望不会被爱长时间泡澡的姐姐抢先。这样平凡的计划在脑海中浮现,我准备下楼。就在这时。“  ”太过突然。连说话的时间都没有。背后传来一声重击。即使再怎么锻炼,作为男人也无法抵挡。身体连基本的防御姿势都没来得及摆好,就被从背后撞得向前倾去,视线摇晃。无法稳住倾斜的身体。眼前是我正要下去的楼梯,远处黑色的沥青像深渊一样张开嘴巴,仰望着我。脑袋一片空白。下意识地伸手去抓扶手,但却没能抓住,手空空如也。星空中,父母、姐姐、小羽、杏、冬弥——各种人的脸浮现又消失。身体在重力的作用下向下、向下坠落,坠落,坠落。“──,”──一声闷响。视线变得黑暗。意识在那一刻中断。***“……!!”──在想起的瞬间,冰冷的感觉在全身蔓延。下意识地用双臂抱住身体,低下头。心脏剧烈而有力地跳动着。手指紧握,几乎要刺入肌肤,伴随着那种痛感,我明白这里是现实,感到松了一口气。“彰人……?怎么了,脸色苍白得不行。……感觉不舒服吗?”“……被推下去了。”“嗯?”“我,从楼梯上……被某个人推下去了。”所以……!然后,当我醒来时就在这里……。”突然停下的彰人被露出不安神情的司窥视着,他的眼睛因这句话而惊讶地睁大。至今我仍然清晰地记得。背后被某个东西以惊人的力量推着,双脚离开地面,被抛向空中。那种漂浮感。像走马灯一样,甚至清晰地看到了各种人的脸。睡觉时做高处坠落的梦,通常是因为精神不稳定。然而现在回想起那件事,根本不是梦,而是现实发生的事情——正因为如此,背脊上流下的冷汗止不住。动不了地僵住时,似乎看不下去的司走了过来。“你受了惊吓吧……没事的。这里没有人会伤害你。”温柔的声音落在全身僵硬的彰人身上。轻轻地,有什么东西碰到了我的头,在意识到那是司的手之前就被抚摸了几下。几次抚摸后,心脏的声音也渐渐平静下来,战战兢兢地抬起头,看到他微微眯起眼睛微笑着。那毫无敌意的笑容让肩膀上的紧张感逐渐消失。“……我、没事。”“嗯。是吗?彰人是个坚强的孩子。” “请不要这样说。”被安慰得有些害羞,顺便觉得被当成小孩有些生气,便用一只手把司的手推开。然而多亏如此,我恢复了状态,又开始走——就在这时,突然意识到。“身体……。”“?”,“身体……哪里都不痛。”没错。确实如此。明明应该是从相当高的地方被推下去,手脚却能自由活动。更重要的是,身上没有任何擦伤或疼痛……仔细想想,这太奇怪了。即使不仔细想也觉得奇怪,醒来前的事情让我终于意识到了矛盾。司似乎也理解了彰人喃喃自语的意思,轻声咕哝。“确实是五体健全。如果说是从楼梯上推下来的话,身上应该会有些擦伤才对……但你哪里都不痛吧?走路的姿势也没有不自然的地方。” “是、是的。没有扭到什么。” “是吗,平安无事总是好的,但……推你下去的人——或者,其他人给你治疗了?不过无论如何,意图都很难理解啊……”想来想去,剩下的只有谜团。最终,两人只能歪着头思考。究竟是谁把彰人推下去的?为什么会把他留在这样的森林里?为什么像什么事都没有发生一样,身上没有任何伤?……虽然不是能得出结论的事情,但我本以为能抓住一点线索,结果却感到失望——就在这时。“……啊。”正思考着越来越多谜团的彰人视野突然开阔。之前环绕在前方的树木,在某一条界线的另一边完全消失了。代替而来的,是广阔的丘陵上延展的草原,穿透般的蓝天……然后。“终于出来了。看,那边就是我们的城下町。你可不是那个镇的人……对吧?”是的,正如这样说。司指着的是一个从未见过的世界。远处耸立的巨大城堡,以及其下延展的城市。即使从远处看,那座高耸的城堡也显得格外宏伟,仿佛是国家权威的象征。就像西方的国家——在电视上看到的,带着海外气息的城堡和小镇。彰人甚至感到眩晕。这里到底是什么地方,真是愚蠢的问题。因为,显然那就是。其实,或许早已明白。从眼前出现的,与自己熟悉的男人同样面孔的人出现的那一刻起。听到王国、骑士等陌生词汇的那一刻起。只是因为不想承认,想方设法将自己所知的现实与现在的情况强行联系在一起,才假装不明白。“司前辈……我可以问你一个问题吗?” “嗯?啊,随便问。” “这里……在地图上大概是哪个地方的国家?”被预感驱动,向司询问,他虽然显得有些疑惑,但还是说了句“稍等”,然后回头看了看走过的森林。捡起一根附近掉落的树枝,蹲下身来。彰人也摇摇晃晃地模仿着蹲下。用树枝的尖端在棕色的地面上划出,司开始画地图,彰人目不转睛地注视着,甚至忘记了眨眼。——彰人那过于脱离现实的预想正在逐渐成形。“虽然是临时的,简单点就行……大概就在这个地方。”不久,司完成了地面上的地图,并用树枝指向一个点。“……”失去了言语。连感谢他告诉自己的礼都忘了,目光被地面吸引。并不是因为不知道指向的地方。问题在于,现实在更大的地方。(这是什么——地图。)或许是世界地图……吗?无论怎么盯着,都无法产生真实感。为了指向我们现在所站的地方而画出的地图——与彰人所知的完全不同。大陆的形状、海洋的形状和大小,所有的一切,仿佛都是人手制造的假货。比如在电影或漫画中看到的,幻想世界中描绘的人工制品。也就是说——。突然醒来,莫名其妙的森林深处。尽管从楼梯上摔下,却毫发无伤的身体。被指示的地图。以及眼前存在的,现实中不可能存在的规模的王城和城下町。仿佛无法理解的景象接连展开,但彰人不知为何将其与第一次踏入那个街道的世界无意识地重叠在一起。原来如此,直到现在自己所经历的一切都恍若明了。颤抖的唇,情不自禁地编织出言语。「这个世界是……,」肯定是与自己曾经生活的世界──完全不同的世界。当我走下如海洋般广阔的草原,抵达小镇时,心中对这里是另一个世界的猜测已变成了确信。随着靠近,逐渐清晰可见的是,围绕整个小镇的坚固石墙、用砖砌成的住宅和塔楼般的建筑。看着眼前如同海外电影中出现的风景,我不禁感到仿佛在做梦。如果真的是梦,那该多好啊。通过手绘地图,彰人终于理解到这个世界与他原来的世界完全不同,但他却无法将这一点告诉司。他自己也仍然半信半疑,更何况说出来能否让对方相信——恐怕是无法相信的。即使这个世界是王国、骑士等充满幻想的地方,突然说“我来自异世界”也太荒谬了。会被认为是个疯子,反而可能引起警惕。在这个左右不分的情况下,他只想避免让唯一可以依靠的人产生多余的猜疑。最终,他决定以“看不太清地图”为借口,跟随司。无论如何,回到森林露宿还不如向这个男人求助,他得出了这样的结论。“走了这么久,累了吗?”“嗯?啊,没……没事。……不过,这个小镇真厉害,我能正常进去吗?”我回头问正在和我说话的司。面对明显厚重的墙壁围绕的小镇,实在有些被压迫。毕竟我只是个手无寸铁、一文不名的高中男生。至于在这个世界里高中生的身份是否有效,我也不清楚。没有任何力量,也无法证明身份,如果被赶走,只能灰溜溜地退回去。──一意识到这是异世界,脑海中便开始往坏的方向想。虽然不太像我,但我希望你能理解这是没办法的。似乎察觉到彰人的不安,司用明亮的声音笑了起来。“哈哈哈!当然没问题!有我在,你就放心大胆地来吧!”“哈……。”“真是一点都不相信的叹息啊!?”面对彰人明显不信任的反应,司显得有些震惊,但随即清了清嗓子,调整了状态。“虽然看起来严肃,但这里并不是会把迷路的人拒之门外的无情之地,所以你放心吧。如果有什么事,我会保护你的。”“……谢谢。”声音不由得有些颤抖,慌忙回应。糟糕,竟然有点感动。毕竟是在不安的情况下被突然说出这样的话,没办法,我告诉自己,摇了摇头。……因为脸、声音、名字甚至性格都一样,所以不小心会觉得自己在和原来的世界的司接触,但这一点必须清楚地意识到。虽然这么想,但老实说,我并不觉得能习惯。在习惯之前能赶紧回去那是最好的。依然跟在司的后面,朝着城镇的入口靠近。想要看到顶端的话,肯定会觉得脖子累的墙的一部分被大大地拱形挖空了。看来那里是通往城下町的入口,偶尔能看到像电影里才见过的马车和抱着大包小包的人们。人们的服装都很陌生。有些人身上挂着很多带子和装饰品,看起来很杂乱,也有些人上下都是一块布做成的破旧打扮。然而这些都与现代的衣服相去甚远。明明是穿着 Y 衬衫、卫衣和西装外套的普通制服,却反而显得格格不入。因为讨厌无谓地吸引视线,不由自主地靠向司。正当我靠近时,肩膀被轻轻拍了一下。抬头一看,司露出了温柔的笑容。那笑容和动作让我不知不觉放松了紧绷的神经……而且,紧张也改变不了我能做什么的事实。借用他的话,心安理得地把一切都交给他。宽敞的城镇入口处,左右各形成了一列队伍,队伍前面站着一些穿着铅色盔甲的人。因为是第一次见到穿着盔甲的人,不由得被吸引了目光。看到排队的人们似乎在和那些穿盔甲的人交谈,或者展示一些像纸一样的东西进入城镇。看来从外面进入城下町需要一些手续——但当我想到我们也要排在那长队中时,司却径直走过,毫不在意地走向队伍的中心。“诶!?等……”,我吓了一跳,快步追上去。周围刺人的目光让我感到不适。我想大概大部分目光都是集中在司身上,但遗憾的是,显然也有不少目光聚焦在彰人身上。感到不堪重负,我小声抗议:“司前辈!那个,真的被看得很厉害……!”“嗯?是吗?”“是吗?才不是……!正常排队就好了。” “我身为骑士不需要那样。而且,排在这长队里不知道要等到什么时候。你也想尽快找到线索吧。”虽然是这样,但我犹豫了。司一副熟悉的样子让我有些恼火。看来这个世界的司似乎也喜欢被人注视。他环顾四周,似乎思考了一下,点了点头:“没办法。彰人,过来。” “啊?“那、那是什么——”——布料翻动的声音在耳边响起。一瞬间我不知道发生了什么。只是在意识到的时候,被强有力地拉着肩膀,几乎零距离地和司站在一起。刚才还在稍远处摇晃的深蓝色布料覆盖在我的身体上。对着惊愕得睁大眼睛的彰人,司得意洋洋地笑着说:“这样周围的人就看不见你了吧。”我心里想着这可不是开玩笑,拼命挣扎。确实我决定要像坐大船一样信任他,但我并不想要这样的结果。“喂,你在干什么啊!停、停下……我不想这样!”“别乱动,这样反而更显眼。” “这身打扮反而更显眼!”这次我提高了声音反抗。司把自己的斗篷披在我肩上,像是要把我藏起来。确实这样衣服是看不见了,但如果我现在就这样走在队伍的中央,反而会更引人注目。身体被神秘的强大力量抱住,怎么也挣脱不开。我听到周围窃窃私语的声音,额头渗出不安的汗水。明明已经来到这么奇怪的地方,我不想太过显眼,但这样根本没有意义。果然在这个异世界里他也是个怪人,我的焦虑达到了顶点,几乎同时我们到达了城镇的入口。“辛苦了!我回来了,刚刚巡逻回来!”“司大人……辛苦了。那个孩子是?”司用洪亮的声音自我介绍,身穿盔甲的男人虽然困惑,但还是做出了像警察一样的敬礼。即使我知道他在从铅色的盔甲里看着我,我也想消失。毕竟和被斗篷裹得严严实实的男人一起回来,谁都会好奇,所以我才说不想这样。司似乎注意到了我指责的目光,面不改色地开始解释事情的经过。当然,仍然把斗篷裹在我身上。他说是在森林里发现我一个人倒下,带我过来的。因为我似乎连回家的路都不知道,所以想让我先冷静下来整理一下情况。看起来也没有其他可以依靠的人,所以他想在我身边。为了这个原因,他想让我进城——虽然是个大概的解释,但听完后,盔甲男意外地轻松地点了点头。“如果是这样的情况,那就不能把你送回去了。请小心。” “这样啊!明白了,感谢你!那么,走吧,彰人。” “啊,不过有一点……还是不要这样在城里走比较好。……怎么看都是在带着可疑的人。” “什么!?真的是这样吗!?” “所以我才说要停下……”我无奈地叹了口气,虽然目光复杂,但司还是放开了我的身体。看他的反应,看来他真的以为自己在努力隐藏我。一体头怎么回事啊,心里无奈地想着,向门卫致以谢意后,跨过了通往城镇的门槛。虽然比想象中顺利地进入了城镇让我有些意外,但环顾四周,依然无法放松紧绷的神经,眼前的景象与现代截然不同。飘来的某种香料的气味也让我感到陌生。能够安全进入城镇是好事,但接下来该怎么做呢?即使想要回到原来的世界,我也不知道方法,而要寻找这个方法,我必须在这个世界生活一段时间……在这种孤身一人的情况下,真的能做到吗?每当我觉得解决了一个问题,新的障碍又会出现,让我感到无比沮丧。呼吸变得沉重而自然。“……你看起来很忧愁。” “!啊,不,……。”似乎看透了我的心思,司开口问道。明明对扑克脸很有自信,但和那个男人在一起时的感觉让我不由自主地露出了本性,真是让人感到可怜。而且如果表现得太过不安,可能会被人察觉到我并非只是迷路而已。我轻轻拍了拍脸颊,重新振作起来。看到彰人的样子,司似乎想说些什么——“……啊~!是司!” “真的!欢迎回来,司!巡逻结束了吗~!?”——突然,一声尖细、含糊的声音重叠在一起。那欢快的声音让彰人不由得颤了一下肩,转头看去。四个幼小的孩子们挥着手朝这边跑来。闪闪发光的大眼睛,让我想起了在原来的世界中,那位男演员表演时观众的眼神,似乎有些重叠。“你们!”司也高兴地叫着,向孩子们走去。蹲下身与他们对视,温柔地抚摸着每一个孩子的头,大家都开心地笑了起来。看来他们非常喜欢司。看到他们如此亲近,我一瞬间想到了他们是否真的是他的孩子,但司的一句话“你们有没有好好帮父母?”打消了我的疑虑。果然不可能,我自言自语道。“司前辈,那些孩子是谁?” “嗯?哦,他们是住在这附近的孩子。我经常陪他们玩。” “是这样啊……”骑士也会做保姆的角色吗?说实话我并不太明白,只能随意地点头。在我和彰人交谈的同时,孩子们拉着司的手臂,扯着他的斗篷,拼命想让他的注意力转向自己。这样的亲密程度可不是一两次玩耍就能培养出来的。被几个孩子围着的样子虽然让人感到温馨,但也有些被揉搓的感觉,真是有趣。“嘿,司,这个哥哥是谁?” “是朋友~?” “是外国人吗?”」突然一个孩子的发言,孩子们无辜的眼神一下子齐刷刷地聚集到我身上。我下意识地贴上了表面的笑容。虽然幼儿的兴趣变化无常,但这也未免太快了吧。我向司投去求助的目光,试图掩饰地促使他说:“那是我的客人……客人啊。接下来要带他逛镇子,今天不能陪你们玩,抱歉。” “哎——!怎么可以!” “稍微陪他们一下也没关系吧~!?”——孩子们的喧闹声变得越来越大。虽然镇上人还算不少,但孩子们的声音在周围格外响亮。司也试图安抚他们,“下次再陪你们玩。”但并没有奏效。看来他们非常期待和司一起玩。即使想要平息,但我觉得自己说什么反而会让事情更混乱……彰人并没有对孩子们说话,而是对司抛出了话语:“前辈。没关系的,请稍微陪他们一下。” “不,然而……” “而且你不是说过,让人笑容满面是你的使命吗。” “……!”在森林里遇到时听到的话。因为和司在原来的世界常说的话很相近,所以给我留下了深刻的印象。在这里为了彰人而抛弃孩子们可能很简单,但这与司的生活方式相悖。就像在观众面前拉下帷幕,结束想看的表演一样。司在听到彰人的话时,眼睛微微睁大了一瞬,但很快点头,恢复了原本活泼的笑容,转向孩子们。“……好吧!那么你们!哥哥也这么说了,特别地!给你们唱一首!” “哇,太好了!” “我想再听一次上次的!开花的那个!” “嘿嘿,哥哥也一起听!司的歌超级好听!” “呃,啊,嗯……是啊,期待呢。”被孩子们拉着衣服,和他们并排站在一起。只要稍微侧目,就能感受到他们期待的目光投向司。说是玩,原本以为是捉迷藏或鬼抓人,没想到意外地和原来的世界的司一样。在这个世界里,让人们笑容满面的方式似乎没有改变。低头调整呼吸的样子,简直就像是演出前的演员。闭着眼睛抬起头,深吸一口气。——当被长长的睫毛勾勒出的阳光色睁开时,仿佛从他头顶洒下了聚光灯,甚至产生了这样的错觉。“‘来吧,现在,在这里!用我的奇迹之歌,让荒野绽放花朵!!’”他张开双臂高声呼喊,司一边哼着旋律一边开始跳舞。刚才的喧闹声不知去向,孩子们停止了喧哗,专心倾听,耳朵倾向那在现世中从未听过的旋律。与说话时不同,带着温柔的声调,震动着鼓膜。全身都在跃动的舞蹈,让我想起了在原来的世界看到的某些场景。从低沉的男中音开始,逐渐过渡到注重气氛的男高音。随着音乐的倾听,我被通过歌声编织的故事深深吸引。──那是一首承载着希望,将绿色、花朵和人们的笑容带到荒废之地的歌。(这种地方竟然如此相似……甚至可以说是一样的。)虽然外貌不同,但只要听到他的歌声,就能感受到他与原世界的司一样的情感。那种指尖都充满意识的舞蹈,传达出毫无妥协的精致。这男人,应该是与那家伙不同的人。然而,高潮的歌声在空中回荡。突然对视,看到那温柔微笑的男人的脸,我不禁感到一丝熟悉。“终于笑了,彰人。我一直想看到你的笑容。”“……。”歌声结束,沐浴在不知何时聚集的观众的掌声中,司柔和地低语。此时,彰人意识到自己在微笑,慌忙用手遮住嘴。事情如他所愿,心中有些不快。司只是满意地看着彰人的举动,向周围聚集的人们表达感谢。他的姿态,仿佛在进行谢幕。周围散发着笑容,愉快地说着希望大家再来听的同时,微微鞠躬的背影让人感到耀眼。高悬的阳光照耀着热闹的街道。转眼间,进入小镇时感受到的沉重心情已然消散。 “抱歉让你意外耽搁了时间,彰人。”“没关系。没必要道歉。”两人回头看着挥手离去的孩子们,轻松地交流着。司似乎觉得让彰人等了,但实际上并没有耽误太久。歌唱结束后被要求安可时,我还担心会发生什么,但看来那些孩子们都很懂事。当司说“我只说了一首”的时候,大家虽然失望但还是点头离开了。聚集在一起的小镇居民似乎也很期待,边发出惋惜的声音边散去。虽然什么都没做,但我却觉得让司夺走了他唱歌和跳舞的时间,心中感到愧疚。其实本不该有这样的余裕。 “……你总是这样做吗?” “是啊。虽然说总是频率不高,但每次下镇时都会让大家看。大家都很开心呢!……啊,当然,是在任务完成之后哦?” “哈,为什么要对我解释?” 看着司不知为何慌张地解释,忍不住笑了出来。从他的发言中可以推测,或许曾经因为放下任务而向人们展示歌舞,结果被狠狠训斥过吧。一个人过于专注于某件事的地方,似乎和那个男人有些相似。当我咯咯地抖动肩膀时,他的表情突然变得愉悦,微笑着让我感到困惑,歪着头问道:“?……怎么了,盯着人家看。” “哈哈,抱歉。明明说要帮忙,却反而是我先被你帮了……刚才谢谢你,多亏了你的关心,才没有摘掉孩子们笑容的芽。” “这没什么值得感谢的……” “不!这可是值得说的。我会还这个人情……虽然这样说可能有点不太准确,但我发誓一定会成为你的力量。”——他用夸张的语气坚定地宣誓,让我有些受宠若惊。虽然他明确表示要帮忙让我感到感激,但我真的值得被如此感谢吗?毕竟只是带着这个陌生人到镇上,给孩子们留了一点玩耍的时间。怎么想都觉得不太对等……不过,我隐约察觉到无论我说什么,司可能都不会改变主意,于是决定默默点头。无论他心中有什么想法,既然他愿意提出合作,也没有理由拒绝。大概是午餐时间吧,突然意识到街道各处飘来了美味的香气。喧闹的人群似乎减少了,走路也变得轻松了许多。取而代之的是,店铺中传来了欢声笑语。想到在另一个世界中午餐时的氛围,我恍惚意识到自从来到这里就没吃没喝。如果这是梦,或许就不会感到饥饿,但即使在这种异常情况下,肚子还是会饿,喉咙还是会渴。人的身体总是正常运转。“嗯。对了,午餐还没吃呢。正好,边吃点轻食边谈谈今后的事吧。彰人,有什么不喜欢的东西吗?” “啊……没有,没什么特别的。什么都可以。”其实是有的,但我觉得让他多操心也不好,于是这样回答。听到彰人的回答,司自信地说这个国家的食物都很好吃,让我期待。虽然和现代的氛围完全不同,但生活在这里的人们都是普通人,关于饮食应该不必担心吧。我们走进了附近一家气氛明亮的店,外观和原来的世界里的意大利餐厅相似,瞥一眼其他客人吃的东西也差不多。像是番茄酱意大利面和满是奶酪的披萨。还看到一个小孩在吃像雪一样的冰淇淋。看来关于食物,似乎没有什么不安的因素——除了我没有钱,无法一个人进店。小声问道:“手上没东西可以吗?”对方理所当然地回答:“当然是我请客。”……虽然是预想中的回答,令人感激,但也让我感到有些害怕,因为这对彰人来说实在太过于方便。看来,司在饮食店的人脉也一样,中年女服务员一看到他的脸就高兴地迎接我们。她说窗边有个阳光明媚的座位空着,于是我们被带到了那里。看着司对几位客人微笑回应,我终于坐下的瞬间,疲惫感如潮水般涌来。平时我不太这样,但这次我不由自主地靠在椅背上。想想也是,刚刚穿过陌生的森林小路,走下草原,在城镇里也没时间休息,累得当然。司似乎察觉到了我的疲惫,拿起桌边的玻璃水壶为我倒水。“你肯定累了,咱们先休息一下再聊吧。”“好的……啊,谢谢。”接过倒好的水,喝了一口。似乎不是普通的矿泉水,带着淡淡的柑橘味。那种介于柠檬和橙子之间的清新口感,伴随着从喉咙滑过的凉意让我稍微放松了一下。看到彰人在喝水的同时,司已经为自己倒了第二杯。──一口喝得真多。“司前辈,别喝得太猛,不然会拉肚子的。”“哼,才、才没有那么猛呢。” “不,你确实喝得不少。看着我这边都快冷了。” “你……开始调皮了。”司苦笑着,把手中的杯子放回桌上,但看起来还是有些高兴。确实,比起在森林里见面时,似乎放松了不少。能开几句玩笑也是因为司的歌舞,让我心情好转,虽然这也有可能是因为我明白了自己所处的状况,知道没有生命危险。但,毫无进展也是事实。──借助司的力量是好的,但我不能冒险说错话被怀疑。这样的话,我就必须亲自寻找不被发现是另一个世界的人而回到原来世界的方法。这似乎相当棘手,几乎是不可能的任务。即使知道这样做没有意义,我还是忍不住怨恨自己为什么要经历这样的事情。当我微微思考未来的事情时,司叫了我一声,我抬起头。看到他正把菜单朝我这边递来。似乎是让我选择点什么。既然要请客,至少也要点便宜的东西,我接过菜单──不由得皱起了眉头。(……!?这、这是什么语言……。)……菜单上列出的文字,是彰人从未见过的。当然这不是日语,也不是在学校学到的英语。即使试图逐字分开,似乎一切都连在一起,根本无法解读。看起来扭曲得像是幼儿随意涂鸦的样子。看来这个世界不仅地图不同,文字的构造也完全不同。那么,为什么说的话却能沟通,这让我感到非常疑惑。“……?怎么了,彰人。”“啊,……那个。我也决定不了,所以和司前辈一样就好。”“是吗……好吧,那就点两个一样的。”我立刻这样回答。虽然不知道这个世界的语言情况如何,但面对现在能进行对话的对象,怎么可能说自己看不懂文字呢。看到菜单表愣住的彰人让人觉得奇怪,但司很快点头叫来了服务员。没有被多问让我松了一口气。带我们入座的不是同一个男服务员,另一位男服务员走了过来。听到司指着菜单点的两个,瞥了一眼彰人后离开了。——果然,和司在一起的陌生男人总是会引起注意,所以我决定不再在意。即使在原来的世界,和司说话时也是这样,想想就没那么在意了。大概。“司前辈真的是人脉广泛……每到一个地方都有人跟你打招呼,是不是在镇上工作比较多?”“并不是……哈哈,怎么说呢。可以说是我的骑士光辉吸引了人们。”“哦。”“别给我表现出明显的不感兴趣!”“因为你不认真回答。” “我可是非常认真……那么,剩下的就是新奇感吧。”“……新奇感?”我对这个说法感到困惑,露出了疑惑的表情。我以为是说像司这样的‘骑士’在镇上走是件稀罕事,但镇口有穿盔甲的守卫,周围也能看到巡逻的士兵。还有各种打扮的人在镇上走动,似乎并不是只有司一个人显得格格不入。说实话,显得格格不入的反而是我——从制服的角度来看。我希望自己只是这样想而已,实际上并没有那么显眼。如果想在这个世界继续生活,服装也得相应改变,否则这种不安是无法消除的。闲话少说。对仍然有些不理解的彰人,司继续补充道:“我是东夜皇子的护卫骑士。本来应该不离开城堡,时刻保护殿下的安全。可是因为我的任性,稍微兼任了一些镇上的巡逻和城墙外的巡查任务。”……可以说,对民众而言,我也是和殿下一样,平时难得一见的存在,大家对我感到好奇并主动打招呼也是理所当然的。」「……诶?啊,……嗯嗯?」「我能看到应该守护的民众的面孔,没有比这更让我高兴的事情了。我非常感谢陛下愿意满足我的要求。……虽然可能会觉得这是过多的工作,但我喜欢现在的生活方式。」脸上挂着笑容的司和一口气被灌输大量信息的彰人形成鲜明对比,彰人感到困惑。他觉得自己似乎知道了一些不可思议的事情,脑海中发出微弱的尖叫。完全是超负荷的状态。然而,在这些信息中,他还是勉强捞起了一个不容忽视的词汇。「冬弥……是吗。」「嗯?」「这个国家的,那个,王子叫……冬弥吗。」「啊!难道你听说过他?」听说过,根本不止是听说过。修长的浅灰色眼睛和双色的蓝发,拥有无与伦比且流畅旋律的嗓音,唯一无二的,彰人的搭档。那张脸在脑海中闪过,心跳瞬间加速。这个世界的司和现实世界的司同名。就在这时,搭档的名字突然出现。这个世界也存在“冬弥”吗?即使那是与自己所知的冬弥是不同的人──。「──那个,」全身的血液仿佛在沸腾。想要知道更多。也许还会出现其他熟悉的人名。或许这会成为回到原来世界的线索。抱着这样的期待,彰人开口了,但「哦,彰人!菜来了。」」「!……啊,啊啊。……是啊。」随着店员和司天真的声音,端上来的菜肴接连摆在桌上,气氛立刻变得不再那样。司点的是海鲜炖饭和法棍,诱人的香料和刚出炉的面包香气弥漫四周。尽管对谈话的继续感到好奇,但肚子却无法抗拒,肚子发出微弱的咕噜声。也许是因为这是自己熟悉的菜。「趁热吃吧。开动了!」「开动了。」看着面带笑容兴高采烈开始动手的司,彰人也拿起了刀叉,心里却不由得想听更多其他人的故事。用整条鱼做的奢华海鲜炖饭,虽然外观豪华,但味道却非常容易入口。简单的调味中,隐约散发着类似生姜的香料。即使扣除饥饿,肉厚的白身鱼也是绝品。由于稍微偏咸的调味,不由自主地伸手去拿面包。吃着吃着,忽然看到安静下来的司,发现他同样在专心致志地吃着。作为骑士,原以为他会吃得更优雅,没想到他张大嘴巴,狼吞虎咽地吃着。思えば彰人在找到之前就已经在森林中走了,可能相当饿了吧。虽然完全没有表现出来。“真好吃!”“是的,真好吃。”两个饥饿的男人之间的对话就这么简单,之后便默默地吃着。没想到在这个陌生的世界里能享受到这样的美食,真是细细品味。几乎是同时说了声谢谢。面对着已经干净的盘子,松了一口气,餐后甜点冰淇淋被端了上来。粉色的冰淇淋是浆果味的吗,想起了是由司点的,结果本人也睁大了眼睛。看到服务员笑着说“这是服务”就离开了——大概是给司的,但我决定感恩地享用这份意外的馈赠。含着酸甜的覆盆子味冰淇淋,感受到冰冷和甜蜜在心中融化。当我继续把勺子送到嘴边时,感觉到一阵视线。抬头一看,坐在对面的司正认真地盯着我。或许是因为他那灿烂的笑容给人深刻的印象,正面被他严肃地注视着让我心跳加速。司在感受到彰人的目光后,似乎下定了什么决心,放下了正在戳冰淇淋的勺子,双手交叠在一起。看着他修长的手指交错在一起,我不由得吞了口水,意识到他似乎要说什么重要的话。自然地,彰人也模仿着放下了勺子。“彰人。如果你不讨厌的话。” “……?” “——要不要和我一起去城里?”我睁大了眼睛。他的表情非常认真,让我不敢开玩笑。虽然已经过了午餐时间,虽然稍微平静了一些,但店里应该还有不少客人。然而,听到司的话的瞬间,周围的喧闹声似乎都消失得无影无踪。他说:“在这个城里你没有熟人,今天也没有地方可以睡。看起来你身上也没有什么钱,放任你这样下去,我会觉得不安。”他说:“如果你说出原因,城里的人也会理解。如果有人质疑,我会想办法说服他们。”他说:“而且当提到东也——殿下的名字时,彰人心里也有些触动吧?看你的表情就知道。那位也很忙,直接见面可能需要时间,但待在附近或许能成为想起什么的线索。”我呆呆地看着他平静移动的嘴唇。接连不断的话语让我无暇顾及冰淇淋的融化,专心倾听。从他非常认真的语气中,我明白司是认真在提议。这份提议对彰人来说简直是求之不得。寝的地方和生活所需的东西都没有,这确实是个悲哀的事实,即使在这里被司背过身说“后面就靠你努力了”,我也会感到困扰。倒下是必然的。然而,我原本以为最多也就是被托付给可信赖的机构或人而已。——没想到会被邀请到王城。“……”不知不觉中,我握紧的手掌上渗出了汗水。直视着那目光,努力让心脏的狂跳冷静下来……答案早已决定,但这提议实在太大,让我无法毫不犹豫地点头。我对这个世界的了解仍然很浅薄。只是将听到的信息与在原世界看到的奇幻漫画和电影中的词汇勉强联系在一起而已。即便如此,王族直属的骑士带着一个无依无靠的少年回王城,这在周围人眼中会是怎样的印象——即使是彰人也能预想到。预想到之后,然而。拒绝这个提议将会对未来产生怎样的影响,想都不用想也知道。“司前辈,您……” “……”,彰人没有立刻点头,终于开口,但司并没有催促他。那双如同阳光般的眼睛静静地注视着彰人,仿佛要照亮一切。在原世界时,被他直视总让我觉得自己的一切都被看透,令我感到不自在。我的思考、我的感情,所有的一切。因此,我低下头,注视着司那被黑色皮手套包裹的指尖,继续说道:“——为什么,刚才才见面的我,您会对我如此关心?” “我已经告诉过你了。让人们微笑是我的使命。”毫不犹豫的回答让我感到惊叹。这个人一定和那个男人一样。为了人们的笑容,可以不顾一切地行动。之后,不再需要更多的话语。——经过这样的交流,现在。走出店铺的彰人在司的带领下,沿着通往城堡的道路前行。走在石板路上,时不时被镇上的人们打招呼,逐渐接近城堡。转过这个角落就有美味的面包店,这条街在黄昏时会变得很暗,独自走的时候要小心等等。谈着这些无关紧要的话,司显得非常开心。看来他非常喜欢这个城下町。看着他的样子,不禁想起了谈论生动街道的杏。她同样是一个珍视自己出生和成长的城市的人。以她的热情,绝对不会逊色于司。“……嗯?”正想着这些,脚步中突然感到了一丝不适。更确切地说,是逐渐感觉到的东西开始变得明显。察觉到四周的彰人,司轻轻拍了拍他的肩膀。我以为他会唠叨我前面走的时候要小心,但似乎只是出于关心。气遣的目光传达着某种信息。“有什么让你在意的事吗?”“不是那样……不,没什么大不了的。只是……感觉空气似乎变了……” “嗯,果然如此。”“果然?”“啊。这附近居住着很多魔道士。”魔道士。又是个幻想的词汇。我在嘴里回味着,等待着司的解释。“王城附近聚集了很多魔道士,这在其他国家也是一样的。不过这个国家的这种倾向特别强烈。敏感于魔力的人似乎能很清楚地感受到……不过,我对魔道并不熟悉,所以并没有特别的感觉,只是觉得靠近城堡而已。”“……是吗。”“如果你能感受到这些,彰人也许是来自于精通魔道的国家。”我忍住了“怎么可能”的反驳,随意地点了点头掩饰过去。在这个世界里,我第一次知道魔法的存在。越来越让人头痛的现实让我感到不安。然而,随着听到的故事,我对靠近城堡时感到的异样也有了些许理解。当然,我并不是感受到所谓的魔力。是“声音”。生活在那里的人的声音。靠近城堡和远离城堡的声音显然不同。镇的入口——也就是“普通人”居住的地方。那一带平民生活得热闹,但住在靠近城堡的人,身份和气派都相对较高。因此,听到的谈话声和人气完全不同,仅此而已。怎么可能在一个不知所措的世界里觉醒不知名的力量。带着些许紧张的气氛,我稍微用力走着。远远望去,王城的巨大让人感觉失去远近感,随着靠近,它的威严愈发增强。白色石墙与蓝色屋顶的组合清新而令人印象深刻。周围环绕的水道和城墙显示出这里是权威的象征。如果这是观光,或许会很享受,但对现在的彰人来说,这只是加剧紧张的威压。然而,现实是除了这里别无去处。顺便说一句,是否真的能待在这里,也取决于旁边走的男人。“明天,我会带你参观城堡。这里很大,一天是无法转完的。”当事人似乎完全没有意识到这件事的重要性,悠然自得地说着。一天无法转完,这是什么,主题公园吗?我侧目轻轻瞪了瞩司一眼,走到正门,果然和镇的入口一样,门卫在守卫着。当他们认出他的身影时,纷纷敬礼。司举起一只手回应,开口说道:“——辛苦了。突然有一个客人,希望能让他通过。”」在门卫们抢先之前,司开始像在城镇那样简要地解释事情。想想这是第二次了,但接下来司必须通过让彰人进入城堡,向各种各样的人重复类似的解释。他说自己是皇子的护卫骑士,但让这样一个职位的骑士再费心去做这些事情,真的合适吗?不,若不这样,彰人就会倒在外面。司一边想着这些,一边静静地看着门卫们的谈判,终于在获得许可时被叫住。这次果然是“如果是司的判断的话”得到了同意。忍不住挺直了背,终于踏入了领地。穿过正门,走上长长的石阶,终于看到了城门。看着那扇用钢铁制成的格子状大门发出轰隆声缓缓打开,心脏感到一阵异样的跳动。从这里开始,正是另一个世界的另一个世界。(真是,发生了不可思议的事情……不过,)回到原来的世界的线索。虽然完全没有头绪,但必须设法找到。因为自己有一个应该回去的地方和想要实现的梦想。仅凭这份想法,沉重的脚步开始移动。迎接彰人的是可能是入口的巨大大厅和高得令人眩晕的天花板。外观同样奢华,若不看现实,简直像是在观光。石墙上到处都有精致的装饰和雕刻。如果绘名看到,一定会想拍照作为参考,想到姐姐的脸。 “在这个陌生的地方让你走了很多路,真是抱歉。马上就会安排房间,请再稍等一下。” “好的……不需要忍耐。我们是受人照顾的一方。” “哈哈,如果这么说,那我们是招待的一方。” “不是那个意思。”两人之间的对话总是有些不对劲。司似乎是认真地说着,彰人对此的回应显得不满。虽然几次被称为客人,但既然要提供居住的地方,倒不如说是寄居的更贴切。果然在某种程度上,感觉上与人有些不对劲。正当彰人想要说出这句话时,突然听到了一声:“──哦?是司君吗?看起来很开心呢。” “嗯?” “诶,”轻快的声音,听起来很熟悉。那声音中透出的快乐让人感到一丝刺痛,皮肤不由自主地起了一层鸡皮疙瘩。喉咙颤抖着,慢慢转过身去。果然不知从何时起,站在身后的男人让彰人目瞪口呆。“……你,”“路易。真是少见,你居然在这种地方。”彰人叫出名字的声音与司的惊讶重叠在一起。肩膀颤抖着笑的时候,紫色的头发随之摇晃,给那笑容投下了阴影。那人眯起金色的眼睛,朝我投来意味深长的目光,正是他。“我有种预感,似乎会发生什么有趣的事情……那么那位小朋友是谁呢?”在原来的世界里,与司并肩被称为怪人双人组的著名人物——神代类。那是一个与他一模一样的青年。